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俺がハルヒの元に戻って数時間。長門の反撃に驚いたのか、敵はめっきり攻撃してこない。 しかし、またいつ襲ってくるかわからないので、俺たちは結局前線基地で銃を構えてぴりぴりしなけりゃならん。 これがゲリラ戦って奴なんだろうな。 ここに戻ってきてからはすっかりハルヒに見張られるようになっちまった。 度重なる命令違反にさすがにぶち切れたらしく、さっきから便所に行くのにもついてこようとしやがる。 せっかく長門に礼を言おうと思っているのに、それも適わん。 「全く少しでも目を離そうとするとどっかに行こうとするんだから。まるで落ち着きのない子供ね」 またオフクロみたいな事をいいやがるハルヒ。 俺は嘆息しながら、仕方なくまた正面の住宅地帯を眺める。古泉のUH-1ミニガンですっかりぼろぼろになった民家を見ると、 ここが本当の戦場なんだろうと思ってしまう。 もうすぐ日が落ちる。辺り一面がオレンジ色に染まりつつあった。あと数時間で2日目も終了だ。 人生の半分以上の情報量がこもっているんじゃないかと思うほどに濃い二日間だったな。 身の回りでこれだけの人が死に、谷口や鶴屋さん、国木田まで命を落とす。 たとえ3日間を乗り切ればすべて元通りといわれても本当かどうかわからないし、実際目の前で死なれて、 ショックを受けない方がどうかしている。こんな現実は二度とゴメンだし、本当の現実にさせるわけにも行かない。 敵はこれからいよいよ本腰をあげて俺たちを叩きにかかるだろう。古泉の予想なら、これからハルヒに 学校への撤退を決断させるような動きを見せるはずだ。今まで以上の凄惨な展開が待っていることになる。 「キョン、ご飯よ。見張り交代してあげるからとっとと食べなさい」 そう言ってハルヒは昼と同じ缶詰を投げてきたので、俺はあわててキャッチする。 って、これだとまるで飼い犬に飯をやっている図みたいではないか。 俺はヘルメットを取って缶詰のブルトップを開けようとしていたが、 「ちょっとキョン、その頬の傷どうしたのよ?」 ハルヒの指摘に俺は頬をなぞる。耳の横あたりをふれたとたん、ピキッと痛みが走った。 ん? ああそういやこんな怪我していたんだっけ。大した怪我じゃない。飛び散ったコンクリートの破片がかすった程度だ。 「ダメよ。ばい菌でも入ったて化膿したらどうするつもり? ほら、拭いてあげるから」 「おい――ちょっとま――うぷぷっ」 俺の意志も無視して、ハルヒはどっかから持ってきていたぬれタオルで強引に俺の顔を拭く。 力任せに拭くもんだからめちゃくちゃ痛い。 「これでよしっと。ちゃんと自分の身体は自分で管理しなさいよ。他のみんなもね。戦闘が始まってからじゃ遅いんだから」 ハルヒの言葉に周りの生徒たちが頷く。なんだかんだで部下思いな奴だ。 と、そこでハルヒに無線が渡された。長門からの連絡らしい。 「有希? あ、さっきの件調べてくれたんだ。ありがと」 ハルヒは長門と無線機越しに会話しながら、またあのメモ帳に名前を書き加え始める。 死んだ生徒と負傷した生徒の確認。指揮官の務めといえばそれまでかもしれないが、 ハルヒなりにけじめをつけているのかもしれないな。 「うんうん……ありがと。じゃあまたね」 そこでハルヒは無線連絡を終了。ぱたむとメモ帳を閉じた。そして、ハルヒは力ないほほえみを浮かべ、 「ついに死者が100人越えちゃった……」 それはあまりに痛々しい表情だった。つい抱きしめてやりたくなるほどに。 俺は何か言ってやりたかったが、どうしても言葉にできなかった。慰めや励ましをしても意味はない。 だったら一体何を言えば良いんだ? 「あと……………………いいんだろ」 ぼそっとハルヒの口から言葉が漏れる。ただ俺は聞き返そうとは思わなかった。 なぜかって? どう見てもただの独り言だし、俺に向けていった言葉ではない。だったらもう一度言わせるなんて野暮だろ。 ハルヒは自分の頭をこづき、 「あーもう、どうしても暗くなっちゃうわね! 何か楽しいことはないかしら! ちょっとキョン。何か漫才しなさい」 「できねえよ、芸人でもないし」 使えない奴ねとハルヒは俺をにらむが、正直このくらい唯我独尊一直線なハルヒの方が見ていて気分が良い。 普段、もっと落ち着けよと散々思っているというのに。 ◇◇◇◇ さて、のんびりモードも終了しハルヒは銃を構えて、周辺の警戒に復帰する。俺もすっかり忘れていたが、 手に持ったままの缶詰を開けてがっつき始めた。まだまだこれからだからな。今の内に腹をふくれさせておこう。 とっとと缶詰を平らげた俺はハルヒの横につき、 「また攻撃を仕掛けてくると思うか?」 「……あたしの予想じゃ、日が落ちるまでは攻撃してこないんじゃないかと思う」 長門の情報改変をしらないハルヒが意外な予想をしてきた。 「何でだよ?」 「バカね。夜になってみなさい。昨日の夜の様子じゃ街灯は点灯するみたいだけど、それでも辺りは真っ暗だわ。 あいつら全身真っ黒だし見えづらいから古泉くんのヘリからの援護も難しくなるし、 夜間にヘリを飛ばしっぱなしってもの危ないし。どっから攻撃されるかわかりにくい上、学校への着陸も難しくなるわ。 ライトか何かで校庭を照らせばいいけど、それじゃ的にしてくれって言っているようなものよ」 なるほど。確かに月明かりと街灯の明かりだけでは、上空の古泉の支援は難しくなるだろう。 そろそろ長門の砲撃の再開も考えなけりゃならん。ただ、あれはヘリと同じほどの切り札だから、 最後の最後まで使い切らないようにしないとな。 だが、敵の動きは予想を完全に裏切った。風を切るような音が聞こえたかと思ったら、強烈な衝撃が 俺たちのいる建物を揺さぶる。天井からバラバラと小さい破片が落下し、あまりの威力に立っていた生徒の数人が床に転がる。 「――みんな無事!? 怪我した人が言ったらすぐに言って!」 ハルヒは真っ先に周りの生徒たちの様子を確認する。幸い負傷者はいなかったようだ。 俺は辺りを見回しながら、 「今のはなんだ? RPGとは威力が桁違いだったぞ」 「そうね……ん! 何か来るわよ!」 ハルヒが正面の住宅地帯を走る道路を指さす。そこには荷台がめらめら燃えたトラックがこちらに向かって―― 俺は理由はわからんが、とっさに何が起ころうとしているのか悟った。きっとテレビのニュースか何かで 見ていた記憶がこんなところで役だったのだろう。 「――特攻だ! 隠れろ!」 俺の声が早いか遅いか。ほぼ同時に炎上トラックが前線基地前で大爆発を起こした。 俺たちのいる建物の一部が倒壊し、破片と砂煙が辺りに蔓延する。 さらに遙か上空まで上がったトラックの破片が次々と俺たちの頭上に降りかかってきた。 そんな中ハルヒは片目だけ開けて微動だにしなかった。あれだけのショックに耐えるなんてとんでもない奴だ。 だが、こいつのとんでもなさはそれどころではない。 「ぎりっぎりだったわね……!」 って、まさか建物にぶつかる前に爆発したのは、お前がやったのか!? どうやって!? 「火を噴いているところに一発お見舞いしただけよ。そしたら爆発したってだけの話! そんなことより、最初の一発目の奴の正体がまだよ! 気を抜かないで!」 ハルヒの言うとおりだ。神業に感心するのは敵を黙らせてからにしよう。 さて、この状況になればいつもの通り、正面の民家から次々と敵が姿を現し始め、こちらに銃撃を開始する。 ワンパターンな奴らだと思いつつ、違うのが一つ。最初の一発目の衝撃の正体だ。 敵弾!という声が響き、俺はあわてて身を隠す。そして、俺たちの隣の建物にそれが直撃して壁の一部を吹き飛ばした。 どっから何を撃ってきやがるんだ!? 俺はとにかく見えない攻撃を放って、窓から顔を出す敵に向けて撃ちまくる。 さすがに敵の動きにも慣れてきたのか、的確に一発一発シェルエット野郎に命中させられるようになっていた。 あまりうれしくない技能取得だが。 とハルヒの元に一人の生徒が駆け寄る。どうやらさっきからの正体不明の攻撃は、 前線基地前方の住宅地帯の路上にいる武装トラックから放たれているものらしい。 はっきりとはしないが、無反動砲のたぐいのようだ。距離が遠い上に周りの攻撃が激しくて、 発射阻止ができない状況に追いやられている。 「古泉くんのヘリを早く呼んで! 上空から片づけるしかないわ――くっ!」 ハルヒが指示を飛ばしている最中にもまた無反動砲による攻撃が続く。 今度は応戦していた3人の生徒の真正面に着弾し、衝撃で彼らが吹っ飛んだのがはっきりと見えた。 近くで難を逃れた生徒たちが、やられたものたちを救出にかかる。 俺はひたすら屋根やら窓から飛び出し続ける敵を撃ち続けた。しかし、いくら命中させても次から次へと飛び出してくる。 当たらないモグラ叩きよりも、終わらないモグラ叩きの方が遙かにたちが悪い。 とようやくここで古泉のUH-1が登場だ。辺りはすでに薄暗くなりつつあるとはいえ、 まだ日が落ちきっていない。今なら無反動砲を備えた武装トラックも視認できるはずだ。 「古泉くん! やっちゃって!」 『任せてください』 ハルヒの指示で古泉は目標の位置を探り始める。だが、しばらくしてから、 『……うまい具合に死角に入り込んでいますね、ただ、攻撃可能な角度もあるようです。回り込んで掃射します』 古泉はそう言うと、ヘリを移動させ始める。 ハルヒはM14で迫ってくる敵をひたすら撃ちながら、 「全く敵の考えがよくわからないわね! 夜になってから攻撃してくると思ったのにさ! 無反動砲なんて持ち出してきたけど、ヘリの餌食になるだけだわ! 相当アホな奴が指揮官やっているんでしょうね!」 ハルヒが怒っているんだか笑っているだか、区別しがたい口調で叫ぶ。だが、俺はその言葉に強烈な違和感を覚えた。 なんだ? 何かが変だ。 俺は古泉のUH-1を見上げる。今、無反動砲トラックを攻撃できるポジションを探して、上空を旋回している。 そもそもどうしてこのタイミングで無反動砲なんていう代物を持ち出してきた? ハルヒの言うとおり、 日が落ちてからやれば効果絶大だ……いや、違う。北山公園の時を思い出せ。敵は軍事的優位を必要としない。 連中の目的は効果的にハルヒに精神的苦痛を与えることだからだ。ならば、今ハルヒ――俺たちにとって、 もっともダメージの大きいことは何だ? 頼りにしている者が倒れることだろう。 なら頼りになる者とは? さっきからの展開を考えれば古泉様々だな。だったら、今古泉のヘリが撃墜されでもしたら、 ハルヒはどれだけのショックを受けるんだ…… 俺はぞっと寒気が全身を駆け抜ける。敵の目的は今もっとも頼りにしている古泉――UH-1をハルヒの目の前で 撃墜することかもしれないんだから! 即座に無線機を奪うように取ると、 「古泉っ! 戻れ! 今すぐ学校に戻るんだ! 早くしろ! それは――」 俺は最後まで言い切れなかった。すでに遅かったからだ。今までとは質の違う発射音が辺りになり響く。 無反動砲トラックがあるだろうと思われた地点から、弾道がしっかりと見えるほどの砲火がヘリに向けられる。 対空砲火だ。今までのRPGやAKでの攻撃とは違う、完全にヘリを落とすための攻撃方法。 「古泉くんっ!」 ハルヒの絶望的な呼びかけもむなしく、UH-1は対空砲を受け続けぼろくずのようになっていった。 俺たちを北山公園に誘い込んだときと同じ手だ。無反動砲を持ち出し、ヘリをおびき出す。 そして、対空砲を用意しておき、のこのこと現れたところを狙って攻撃。くそっ! どうして同じ過ちを繰り返しているんだ俺は! ぼろぼろになりつつもまだ跳び続けているUH-1。そして、こんな状態だというのに古泉からの無線連絡が入る。 『は……はは……してやられましたね……』 「古泉くんっ! 古泉くんっ! 早く逃げて!」 ハルヒの必死の呼びかけ。しかし、古泉には聞こえていないのか、一方的な話し方で続ける。 『後ろの生徒も隣の生徒もみんなやられて……しまいました。僕ももう持たないでしょう……。 ですが、このままでは終わりません……!』 急にUH-1が猛烈な勢いで高度を下げ始める。あいつまさかっ!? 『また……部室で会いましょう……!』 そのまま住宅地帯に墜落した――いや、あえてそこを狙って落ちたのだろう。無反動砲と対空砲があったと思われる場所に。 「古泉っ!」 「古泉くんっ!」 俺とハルヒの呼びかけに古泉は答えることはなかった。あれで生きていられるわけがないだろう。 何がまた部室でだ! 最期まで格好つけやがって! バカ野郎が! 墜落のショックで無反動砲の砲弾が爆発を始めたらしく、轟音が鳴り響く。しかし、俺は耳をふさぐこともなく、 呆然と空を見上げたままだった。いつもスマイルでハルヒのイエスマン。いけ好かないところや、 いまいち信用ならないところもあった。だけど、最近ではSOS団に思い入れのあるようなことを言うようになっていた。 あの古泉が死んだ。そう――死んだ。 俺は呆然としている自分に気がつき、あわてて意識を取り戻す。何をやっているんだ! 古泉が自らの命をかけてまで、 敵を叩いたんだ! それをただ呆然と見ているか!? しっかりしろ俺! はっと俺はハルヒの方に振り返る。あれだけ頼りにしていた古泉の死だ。ハルヒにとっても耐え難いことのはず―― 「…………!」 俺が見たのは、血が流れるほどに強く唇をかみ、必死に叫び声を上げまいと耐えるハルヒだった。 不安定な呼吸からかすかに声も漏れてくる。 俺は意を決して、 「ハルヒ!」 「……何よ!」 「負けねえぞ!」 「当たり前よ!」 ――もう完全に日が落ち、夜が辺りを支配しようとしていた―― ◇◇◇◇ UH-1撃墜からすでに3時間。俺たちはひたすらノンストップ戦闘を続けている。前回までとは違い、 今回の攻撃はやたらとしつこく、叩いても叩いても敵が飛び出し、たまに武装トラックが現れるという繰り返しだ。 古泉の支援がなくなったことも原因だろうが。代わりに北高からの砲撃を再開しているが、 こっちも砲弾の残りが少ないためにちまちま撃つ程度になってしまっているため、効果は薄い。 もう辺りは完全に真っ暗になって、今では街灯と満月の月明かりだけが敵の位置を知らせてくれる。 幸い、シェルエット野郎はどうも薄く発光しているらしく、暗闇の中でも昼間ほどではないが視認することができた。 変なところでサービスしやがるな。 「本当にしつこいわね!」 ハルヒはいったん銃を撃つのをやめると、水筒の水をがぶ飲みし始める。ハルヒが愚痴を言いたくなるもの仕方がない。 何せ、さっきから延々と戦闘が続けられているからな。いい加減うんざりしてくるぜ。 「きっと敵は調子に乗っているのよ。古泉くんのヘリを撃墜してここで一気に決めようとしているんだわ! そうはさせるかってもんよ!」 ハルヒは口をぬぐってから、またM14を片手に敵めがけて撃ち始める。 今の状況は消耗戦だ。敵は無限に出現しやがるが、こっちははっきり言って人員不足がひどくなりつつある。 北高側の稼働を考えると、もう前線基地に持ってこれる生徒はいない。しかし、こっちは延々と撃ち合っている間に、 どんどん負傷者や死者が増える一方。前線基地をこれ以上守るのは不可能な状況になりつつあった。 しかしだ。こうやって敵の目的がハルヒに学校までの撤退を決断させる状況に追い込むことなのは俺でもわかる。 わざわざ奴らの目的通りに動くなんてあまりに腹立たしい。何とか出し抜いてやりたいが…… と、ここでハルヒに無線機が渡される。長門からの連絡らしい。ハルヒは物陰に入り、 「有希、またこっちに補給は送れる? え、人員は良いわ。これ以上、そっちは減らせないし、 こっちだけで何とかやりくりするつもりよ。大丈夫だって。何が何でも守りきってみせるから」 こっちには長門の声は聞こえないが、どうやら弾薬の補給を要請しているらしい。 しばらくそんな会話が続いたが、やがて、 「ありがと。じゃあね、有希」 そう言ってハルヒは連絡を終了する。ただ――最後のじゃあねはなんだか聞いていて辛くなるような口調だった。 が、ハルヒは俺の方に無線機を向け、 「キョン、有希やみくるちゃんに言いたいことがあるならいっときなさい。今の内にね」 「…………」 俺は無線機を受け取り、敵から見えないように物陰に引っ込む。代わりにハルヒがM14を持って銃撃を再開した。 『聞こえる?』 「ああ」 長門からの声。なんだかすごく懐かしい気分になった。さっきから銃声音しか聞いていなかったからだろうか。 「そっちの様子はどうだ? 今の展開じゃ、北高側への攻撃が始まってもおかしくないけどな」 『大体の状況は把握している。古泉一樹のことも』 「そうか……」 俺はまた脳裏にUH-1が撃墜された光景がフラッシュバックする。ぼろくずのようにされて地面に落下していく姿。 そして、古泉の最期の台詞。思い出したくもないのに。 しばらく、沈黙してしまった俺だったが、長門はその空気を読んだのか、 『あなたの責任ではない』 めずらしく慰めの言葉をかけてきた。が、続けて、 『事実。この疑似閉鎖空間を構築した者たちに逆らうことは不可能に近い。想定外の行動で攪乱するだけでも上出来。 彼らは私たちを好きなときに消すことができる。例え、古泉一樹抹殺のための罠だと気づいても、別の方法が実行されただけ』 「……そうかい」 長門なりの励ましなのかもしれないが、あっさりと敵の罠にかかったショックは大きい。 そして、俺たちがいくら努力しても所詮は、創造主様の手のひらで踊っているにすぎないって言う事実もそれに拍車をかける。 しかし、敵の襲撃を受けている中でいちいち落ち込んでいる場合でもない。 「こっちは、恐らくそろそろ北高に戻ることになりそうだ。敵の思惑通りといったところで腹が立つが、仕方がない。 それからが勝負――」 『涼宮ハルヒが前線基地を放棄して、北高に撤退することはあり得ない』 何? それはどういう意味だ? 『先ほど話したことで確信を得た。涼宮ハルヒは北高へ撤退しない。一人になってもそこから動かない。 生命活動が停止するまでそこで抵抗を続ける』 俺はハルヒの方に視線だけ向ける。必死な表情で一目散に敵めがけて撃ちまっているこいつの姿は―― 『限界が近い。このままでは3日という期限前に、これを仕組んだ者の目的が達成される』 「目的だと? それはどういう――」 『待って』 俺の質問を遮り、突然長門の声が遠ざかった。一瞬、ついに北高への攻撃が始まったのかとどきっとしたが、 無線機からかすかに流れてくる長門と喜緑さんの声を拾う限り、そうでもなさそうだった。 やがて、長門がまた戻ってきて、 『聞こえる?』 「ああ、聞こえるぞ」 『今、情報操作権限の一部を私の制御下に置くことができた』 「は?」 『情報操作権限の一部を私の制御下に置くことができた』 長門は淡々と語っているが、それって実はとんでもないことなんじゃないか? 『正確に言うと、この空間に置ける――CREATEの実行権限を私の制御下に置いた。 UPDATEとDELETEはまだ不可。時間はかかるが、順次こちらの制御下に置くようにする。 淡々と語るのは良いが、具体的に何ができるようになって何ができないのかを教えてくれ。 『現在、私はこの世界の物質を構築することができる。そして、仕組んだ者はそれができない。 だから、これ以上あなたたちの生命活動を停止させるべく作り出されている敵性戦闘物体はこれ以上増えない』 俺は一気に歓喜の声を上げようとしてしまうが、ぎりぎりで飲み込む。ハルヒに気がつかれるとまずいしな。 さらに長門は続ける。 『ただし、現在この世界にすでに存在しているものに対し、改変・消去は不可。その権限は持っていない』 「ようは、今俺たちに襲って来ている連中はそのままだが、これ以上増えることはないって事なんだな」 『そう。しかし、それを見越していたのか、この世界に置ける敵性戦闘物体の総数はかなり多く構築されている。 そこから数キロ北方には、前線基地周辺にいる以上の戦闘能力を備えたものがすでに配備されていた。 これらが南下を開始した時点でこちら側に勝ち目はない。現状に置いて圧倒的不利は変わっていない』 「……手放しには喜べないって事か。おっと!」 また武装トラックが出現して、12.7mm機関銃の乱射が開始された。ハルヒが口からつばを飛ばして反撃の指示を出している。 『だから、CREATE権限を最大に利用して、敵性戦闘物体への反撃を行いたいと考えている。 短時間かつ広範囲に対してダメージを行う方法を採用するつもり』 「具体的に何をする気なんだ?」 俺の問いかけに、長門はしばし考えるように沈黙して、 『航空機による空爆を実施する』 ◇◇◇◇ 思わずくらっと来たね。まさか、長門から空爆なんて言う地球人類的な発言が出るとは思っていなかったがとか そんなことはどうでもよくて、敵が一網打尽にできるなら反対する理由なんてどこにもない。 俺は長門との無線連絡を終了すると、ハルヒの元に行き、 「おいハルヒ。長門からの報告だ。すごい攻撃方法を実行するって言っていたぞ!」 「すごいって何よ!?」 「空爆だとよ!」 「すごいじゃない! 何でも良いから早くやっちゃって!」 ハルヒは俺の言ったことを理解しているのしていないのか、もはや何で今頃なんて考える余裕すらないのか。 まあ、深く考えてくれない方がこっちとしても好都合だ。 だが、ここに来て敵の攻撃が苛烈さを極めてきた。どうやら、これ以上、シェルエット野郎を増産できないことに 感づいたらしい。残っている戦力だけでこっちをつぶしにかかってきたみたいだな。 「キョン! 撃ちまくって敵を後退させるのよ!」 「言われんでもわかっているさ!」 とにかく動いているものにめがけて撃つ。俺はそれだけを考えて引き金を引きまくった。 だが、敵も必死なのか今まで以上の命中精度で俺たちに銃撃を加え始めた。あっちこっちで銃撃を受けた生徒たちの悲鳴が上がる。 ハルヒもだんだん焦りだして、 「有希の言う空爆ってまだなの!?」 「もう少しだろ! 今はあいつを信じて待つしかない!」 そう俺が怒鳴り返したときだった。何かのエンジン音みたいなものが銃声音の隙間から聞こえてくることに気がつく。 雲一つない満月の夜空を見上げると、飛行機が2機俺たちの頭上を飛んでいるのが目に入った。 満月とはいえ、さすがに夜ではシェルエットしか確認できないが、テレビとかでよく見る戦闘機に比べて、 主翼が直線にのびる翼で、尾翼の前にターボエンジンぽいものが2つ乗っかるようにある。なんだありゃ。 地球的デザイン+宇宙人的センスが混じったような変な機体だ。いや、でも今俺があれを見てなんなのか理解できないって事は、 敵が俺の頭の中にねじ込んだ知識の中にはないって事、つまり想定外のものが出現したって事だ。ざまあみやがれ。 しばらくその変な飛行機は俺たちの上空を飛び回っていたが、いっこうに攻撃を開始しようとはしない。 と、長門からの連絡が俺に入る。 『予定通り攻撃機の構築は完了した。しかし、問題が発生している』 「どうしたんだ?」 『あなたと涼宮ハルヒのいる位置と敵のいる位置の境界線が不明。このままではあなたたちを誤射する危険がある』 そりゃ勘弁してほしいね。ここまで来て味方に吹っ飛ばされたら無念どころではすまないだろうからな。 『正確に言えば、あなたと涼宮ハルヒの位置は完全に確認している。この世界を構築した者の視認モードでは 涼宮ハルヒ本人とそれに関わりのある人間はどこでも捕捉できるようにされていた』 なるほどな。だから、ハルヒも俺も今までろくな怪我もせずにいたってわけか。意図的に俺たちから狙いを外して。 そして、逆に殺害の時間が来たらきっちり確実に仕留めると。 『だから、あなたたちを誤って攻撃する可能性はない。しかし、その他の生徒たちは敵性戦闘物体と 認識レベルが同等になっている。今の情報制御状態では、それを判別することはできない。 地図から入手している情報で誤射の確率は限りなく低いが、ゼロにはならない状態』 「誤射する可能性はどのくらいあるんだ?」 長門は考えているのかしばらく沈黙した後、 『3%以下』 「……そうか。ならやめておいたほうがいいな」 『やめてたほうがいい』 俺はしばし考える。たかが3%とはいえ、それが見事的中してしまえばしゃれにならない事態だ。 ハルヒにかける精神的負担も今までの比ではない。わざわざ敵の目的に荷担するようなものである。 「まだ時間があるが、日が昇るまで待つってのはどうだ? それなら確認もしやすくなるはずだ」 『無理。敵性戦闘物体は攻勢を強めている。今のままではあなたたちは朝まで持たない。確実に全滅する』 長門の言葉を証明するように俺の近くにいた生徒が銃撃を受けて倒れる。一体この数時間でどれだけの生徒がやられた? ひょっとしたらもう俺とハルヒぐらいしかいないんじゃないか。どのみち、このままでは持たないのは確実だろう。 ならばどうにかして長門に攻撃位置を知らせる必要があるが、激戦状態の前線基地に来させるわけにもいかない。 「……待てよ。俺とハルヒの位置は確実に特定できるんだよな」 『そう』 俺はぴんと来て、長門に作戦の概要を説明する。長門は少し考えるように黙った後、 『わかった。あなたに任せる』 そう了承した。さてと、問題はハルヒだな。 「おいハルヒ」 「有希は何か言っていたの!? はやく、空爆でも何でも良いからやってくれないとこっちが持たないわ!」 M14をひたすら撃ちまくりながらハルヒ。俺はとりあえず長門が攻撃できない理由を端的に説明してやる。 ハルヒは眉をひそめて、 「それじゃ仕方ないわね。あーうまくいかないもんだわ! また別の手を考えないと!」 「そこで一つ提案があるんだが」 「何よ?」 ハルヒが疑惑の目を向ける。今までハルヒ総大将の意向を無視してやりたい放題だったおかげで すっかり警戒されちまっているな。 「俺が敵の位置を知らせるために、敵の居場所につっこむ。そこで銃を上空に向けて長門に位置を知らせる。 そして、俺が戻った後に長門がそこにめがけて攻撃するってわけだ」 「ダメよ! ダメに決まっているじゃない!」 やっぱり反対しやがった。 「どーしてもそれしかないってなら、あたしが行くわ! それならいいけど!」 俺はいきり立って眉毛をつり上げるハルヒの頬をそっとなでてやると、 「お前は総大将だろう? ここにいて他の連中を守ってやる義務がある。こういう突撃役は俺みたいな下っ端の仕事さ。 心配すんなって。死ぬつもりはねぇよ。お前の援護次第だがな」 俺の言葉にハルヒは口をへの字に曲げて抗議の表情を見せていたが、 「わ、わかったわよ……! 任せるからしっかりやりなさい! こっちもしっかり援護するから!」 なんだかんだで了承するハルヒだ。他に方法がないことを理解しているのだろう。 俺は無線機を背中に背負う。目的地に到着次第、長門に連絡しないとならないからな。 「ハルヒ! こっちはいつでもいいぞ!」 「わかったわ! いいみんな! 合図とともに一斉射撃よ。とはいってもでたらめに狙っても意味がないわ! 屋根の上とか窓とかにいる敵を確実に仕留めなさい! いいわね!」 了解!と周りの生徒たちが返事する。頼もしいぜ。 「行くわよ――キョン行って!」 ハルヒとその他生徒たちが一斉に前面の民家に向けて射撃を開始する。窓やら屋根やらにいたシェルエット野郎が 次々に飛散していった。それを確認すると俺は前線基地の建物から飛び出し、前方の住宅地帯に飛び込む。 俺は叫びながらひたすら路地を突っ走った。とにかく、敵の注意をこっちに引きつけなけりゃならん。 そうすりゃ長門の空爆もやりやすくなるってもんだ。 そこら中から放たれる銃弾を奇跡的にもかわし続け、俺は住宅地帯の真ん中あたりに到着し、 適当な民家の中に飛び込む。どたどたと中にいた敵が驚いて撃ちまくってくるが、俺は的確にそいつらを仕留める。 やれやれ、ずいぶん射撃もうまくなっち待ったもんだ。 俺は敵がいなくなったのを確認すると無線機を取り、 「おい長門! 目的についたぞ。俺の位置は把握できているか?」 『問題ない。はっきりと確認できている』 「よかった。じゃあ、ハルヒのいる位置と俺のいる位置がわかるな? そこが味方のいる位置で、 俺が敵のいる位置だ――と!」 また一人のシェルエット野郎が民家に乗り込んできたので射殺する。長居はまずい。 「ハルヒのいる位置から俺のいる位置の間は攻撃するな。敵はいるが味方に近すぎで誤射の可能性がある。 俺よりも北側ならどれだけ攻撃しても良い。派手にやってくれ!」 『わかった。即刻そこから涼宮ハルヒのいる位置まで戻って』 「言われんでもわかっているさ!」 俺は無線を終了させると、外に飛び出そうとするが―― 「うわっ!」 俺は悲鳴を上げて、民家の中に逃げ戻った。何せ民家の窓、路地の陰から俺にAKを構えているシェルエット野郎が 見えたからだ。それも数十人規模で。ほどなくして、俺にめがけて乱射が開始される。 必死に頭を抱えて室内の壁に身を寄せて、銃撃に耐えるもののこのままじゃいずれ民家内に侵入される! 「どっちみちかわらねぇなら……!」 俺は無線を取り、 「長門! 俺の位置ははっきりとわかっているんだな!?」 『わかっている。だから早く逃げて』 「すまんが、今のままじゃ逃げられそうにねぇな。だから、俺に構わず撃て。といっても俺に当たらないようにな!」 『……危険すぎる。できない』 「いいからやれ! このままじゃやられるだけだ!」 『…………』 「おまえならできるさ。十分信頼できると思っている。だからやってくれ」 長門はしばらく黙っていたが、やがて絞り出すような声で、 『わかった。今から空爆を実施する』 「ああ、悪いな」 『有希、待ちなさい!』 突然割り込んできたのはハルヒの声だ。こいつ、盗み聞きしてやがったな・ 『やめて有希! キョンが……キョンが死んじゃう!』 『大丈夫。当たらない。絶対に当てない』 『無理よ! こんな乱戦じゃ!』 「ハルヒ!」 俺の一喝でハルヒの叫び声が止まる。 「……長門を信じてやれ」 そう言ったが、ハルヒはこれ以上何も言ってこなかった。俺はそれを了承と受け取ると、 「長門、頼む」 『了解』 長門からの返事とともに敵からの銃撃がやんだ。そして、一瞬辺りが静まりかえったと思いきや、 突然、耳をえぐるようなブオオオオという回転音ようなものが響く。 「――うおぁ!?」 情けない声を上げてしまったが勘弁してくれ。何せ窓から見えていた隣の民家が根こそぎ吹っ飛ばされたんだからな。 爆弾じゃないぞ。何だ今のは!? 疑問に思っている暇もなく、また同じ轟音が響き今度は別の民家が消し飛んだ。あれに当たったら12.7mmどころじゃない。 跡形もなく消し飛ぶぞ! しばらく長門の空爆らしき攻撃が続いたが、 『あなたの周辺の敵は一掃した。今の内に前線基地まで戻って』 「助かった。ありがとうな!」 俺は長門に礼を言うと民家から飛び出して、 ――愕然とした。何せ俺のいた民家の周りの家がことごとく木っ端みじんに粉砕されているからだ。 長門の奴、なんて容赦のないものを持ち出してくるんだ。 しかし、それでも敵はしつこい。がれきになった民家の陰からしつこく銃撃を加えてきやがる。 俺はそれに撃ち返しつつ、前線基地に走り出す。見れば、また俺の頭上を1機のあの奇妙な飛行機が飛んでいった。 そして、息も切れ切れになりながら、ハルヒのいる建物に飛び込む。 そのまま大の字で仰向けに酸素補給活動をしていたが、隣にハルヒが立っているのに気がついた。 ああ、あの眉間のしわ寄せ具合を見ればどれだけ頭に来ているのか、すぐわかるな。 「この――バカ!」 ハルヒの罵倒がなぜか心地よかった。 ◇◇◇◇ さて、帰ってきたとはいえまだまだ戦闘は継続中だ。前線基地周辺にいる敵は長門の空爆対象外だからな。 こっちでつぶさなきゃならん。ちなみに空を飛ぶ攻撃機はしばらくガトリング砲らしきものを撃ちまくっていたが、 続けてミサイルやら爆弾の投下が開始された。 「その調子よ、有希! 徹底的にやっちゃって!」 『了解。しかし、補給が必要。攻撃機の入れ替えを行う』 さすがに弾切れを起こしたのか、2機の攻撃機があさって方向に飛び去っていった――と思ったら、 今度は8機出現だ! 長門の奴、本気で容赦する気ねぇな。 『敵の新手が何かしてそちらに向かっているのを確認した。これから攻撃機の半数はそちらの迎撃に向かう』 「新手!? 今度はいったい何なのよ!」 『……確認した。T-72戦車数十両』 長門の報告に顔を見合わせるハルヒと俺。やつら、切り札を残してやがったな。 「冗談じゃねえぞ。そんなもんがここに来られたら対抗手段がねえ」 『任せて、あなたたちのところへは一両も到達させないから』 長門航空部隊の半数が北上し、ミサイルなどで敵の戦車部隊がいると思われる場所へ攻撃を開始した。 しかし、敵も猛烈な対空砲火で応戦を開始する。攻撃機と戦車のガチンコ勝負だ。身近でみたいとは思わないが、 かなり痛快なシチュエーションだろう。 「ちょっと有希大丈夫なの!? あんなに攻撃を受けたら撃ち落とされるんじゃ――」 『大丈夫。この機体は数十発程度の被弾では落ちない』 長門、おまえ一体何を持ち出してきたんだ? とにかく、そっちは任せるぞ。 俺たちはしつこく迫るシェルエット野郎に応戦を続ける。しかし、こっちの負傷者増大でもはや限界だ。 長門の空爆で敵の戦力は格段に落ちたが、それでもまだ向こうの方が有利だ。 増援がほしいがこれ以上は無理と来ている。 「ハルヒ! もう持たないぞ! どうするんだ!?」 「…………」 ハルヒはあからさまに苦悩の表情を浮かべて迷っていた。学校まで戻るか、それともここで徹底抗戦か。 前者ならもう少し粘れるかもしれないが、学校への直接攻撃を許すことになる。 おまけにここにいる負傷者を回収するのは無理だ。置き去りにするしかなくなる。しかし、後者ではもう持たないのだ。 と、そこでまた長門からの連絡が入る。 『そちらに新しい戦力を送った。3人ほど。操縦が可能な車両も供与してある』 3人? 何でそんな中途半端な増援なんだ? しばらくすると猛スピードでジープぽい車両が俺たちの前に現れた。そして、その座席から現れたのは、 「森さん? それに新川さんも」 ハルヒが素っ頓狂な声を上げる。そう現れたのは古泉と同じ「機関」なる組織にいる二人だ。 どうしてこんなところにいるんだ? そんな俺の疑問にも答えず、迷彩服に身を包んだ森さんは、 「救援としてやって参りました。古泉のことは聞いています。彼の代わりとしてあなたたちを援護します」 「短い付き合いになりますでしょうが、できるだけの事はしますので。指示をお願いできますかな」 新川さんも同調する。いや、もう何でとかはどうでもいい。長門が何とかしたんだろということにしておこう。 とにかく、今は乗り切る方が最優先だ。ハルヒも特に深く追求するつもりはないらしく、 森さん新川さんにせっせと指示を出している。ところで、やってきた車両の銃座で12.7mm機関銃を撃ちまくっているのは誰だ? どうも女性らしいその人はさっきからハルヒの方をしきりに気にしつつ、近くにいなくなったことを確認してから 俺の方に手を振った――って、朝比奈さん(大)かあれ! 「キョンくん、こんにちわ」 くいっとヘルメットを持ち上げて見せたその顔は間違いなく朝比奈さん(大)だった。 あの長い髪の毛をヘルメットの中にしまっているらしく、全然気がつかなかった。 「驚きました。だって、全然こんなことをやった覚えがないんですから」 「……どうやって、ここに来たんですか?」 「それは禁則事項です」 とまあいつもの秘密主義者ぷりを発揮すると、また12.7mmを撃ちまくり始める。全く何がどうやっているのやら。 北方での長門航空部隊と敵戦車部隊の死闘はさらに激しさを増しているらしい。 いつのまにやら10機以上に増大した攻撃機が爆撃を続けている。 一方の俺たちは、何とか3人の増援を手にしたおかげで少しばかり――どころか圧倒的に状況が改善した。 特に森さんと新川さんがすごい。どこかで特別な訓練でも受けているのか、狙った獲物ははずさないモードだ。 次々と敵を打ち倒していくんで俺のやることがなくなったほどだ。ちなみに朝比奈さん(大)は とにかく12.7mmを撃ちまくっているんだが、いっこうに敵に命中しないのはらしいと言ってしまって良いのかな? それから数時間、激闘が続く。眠気すら起きず、汗もだくだくで俺はひたすら撃ちまくった。 ハルヒも森さん、新川さん、朝比奈さん(大)、そしてその他の生徒たちも。 そして、もうすぐ日が上がろうと空が黒から青に変わろうとしていたとき、 『敵性戦闘物体の完全消滅を確認。同時にこちらはUPDATEとDELETE権限を確保した。 もう攻撃してくるものは存在しない』 長門から入った連絡。それを聞いたとたん、俺は力が抜けて座り込んでしまった。終わりか。やっと終わりなんだな。 ハルヒもM14をほっぽり出して、地面に大の字になる。他の生徒たちもがっくりと力尽きたように座り込み始めた 「キョン、ねえキョン」 「何だ?」 「……終わったのよね」 「ああ、もう終わりだ」 「そう……」 ハルヒは呆然言った。なんてこった。何かをやり遂げた後は大抵爽快感とか達成感とかが生まれるもんだと思っていたのに、 今の俺たちにはただ終わったという感想しか生まれてこなかった。ただ――虚しいだけだった。 ◇◇◇◇ 学校が見える。何かやたらと懐かしく見える北高の見慣れた校門だ。 俺たちは前線基地からようやく学校に戻って来れた。何せ、負傷者やらなんやらを担いでの移動だ。 さすがに時間がかかる。おっと、トラックを使わなかったのは、全員歩きたかった気分だからだ。特に深い理由はない。 そして、そんなぼろぼろな俺たちを校門で迎えてくれたのは―― 「キョンくーん!」 真っ先に俺に抱きついてきたのは朝比奈さん(小)だ。俺に抱きついて泣きじゃくり始める。 「ふえっ……よかったです。古泉くんまで……死んじゃってキョンくんまで……ふえええ」 「何とか乗り切れましたよ。朝比奈さん」 俺がいくら言葉をかけてもひたすら泣き続ける朝比奈さんだった。 ふと、長門と喜緑さんがいることに気がつく。 「よう長門。助かってぜ。ありがとな」 「……そう」 相変わらずリアクションの少ない奴だな。 「ところでだ。森さんや新川さんとあ――は何で突然この世界に出現したんだ? って、あの3人もういねえし!」 振り返ってみれば、森さん、新川さん、朝比奈さん(大)の姿が完全になくなっていた。 まさか、あれは全部俺の妄想とかいうオチじゃないよな? 「あの3人は、この世界に入ろうと試みていた。だから、私が招き入れた。絶対的な人員不足を解消するためには、 少しでも人手が必要だったから」 長門の淡々とした説明を聞く。全く風のように現れて、あっという間に去っていったな。昔のヒーロー番組かよ。 ま、おかげで乗り切れたからいいけどな。 代わりに目に入ったのは、ふらふらと力なく歩く一人の人間――涼宮ハルヒだった。あの威勢のいい早歩きの面影もなく、 まるで水も食料もなく沙漠をさまよってはや数日な状態の歩き方だ。 「おいハルヒ。どこにいくんだよ」 「……ゴメン。一人にさせて」 それだけ言うと、ハルヒは校庭の方に去っていってしまった。精神的負担は想像以上なのかもしれない。 その背中は真っ白になって力尽きてしまっている。大丈夫なのか? 「この空間から元の世界に帰還できるまでしばらく時間がかかる。今は負傷者の手当を優先すべき」 長門の言葉に俺はうなずく。ハルヒのことも心配だが、今はけが人からなんとかしなきゃな。 ◇◇◇◇ 「飲んで」 俺は長門から差し出されたペットボトルの水を飲みほす。 すっかり日が高くなり大体負傷者の手当も終わった。死者117名、負傷者75名。 これが俺たちが出した最終的な犠牲者の統計だ。ようやくこれ以上数えなくて良くなったことはうれしいが、 これだけの生徒たちが傷ついたんだから、手放しで喜べるわけもなかった。 校庭に降りる階段に座り込んでいる俺の隣では朝比奈さんがすーすー寝息を立てている。 何でもこの異常な世界に放り込まれてから、一睡もしていなかったらしい。 この狂気の世界じゃ眠る気にもなれなかったのだろう。 「で、いつになったら俺たちは元の世界に戻れるんだ?」 俺の質問に長門は、 「もうすぐ。この世界との情報連結状態の解除が完了する。第1段階として、涼宮ハルヒたちに関わりの薄い生徒たちから 元の世界に帰還することになる」 そう言いながら長門も俺の隣――朝比奈さんの反対側に座り込んだ。そして、続ける。 「それが完了次第、次に私たちが帰還を開始する。現在のところ問題ない」 「……犠牲になった生徒たちは?」 「問題ない。生命活動が停止した時点で元の世界へ帰還されていた。この世界で起こったことの記憶をすべて消去した上で」 「そうかい」 俺はすっと空を見上げた。雲一つない快晴だ。この世界で唯一まともだったのはこの青空ぐらいだったな。 「結局、こんなばかげたことをしでかした奴の目的は何だったんだ?」 「はっきりとは不明。ただ、当初予想していたように涼宮ハルヒに対して精神的負荷をかけることが目的だったのは確実」 「やっぱりそうなんだろうな」 「相手のシナリオはこう。1日目は涼宮ハルヒに近い人間には手を出さず、関わりの薄い人間への攻撃を強める。 2日目午前、いったん危機的状態に追い込む。この時点で近い人間を殺害する」 「そりゃ鶴屋さんのことか? しかし、実際には鶴屋さんはハルヒの命令を無視して戦死してしまったけどな」 「そう。そのためある程度の軌道修正を加えたと思われる。だから、2日目午前の攻撃は規模が大きくなかった。 そして、午後あなたの生命活動を停止させない程度の負傷を追わせた後、古泉一樹を殺害する」 「……前線基地の最西端に俺が移動したのも敵の思惑通りだったてのか。全く陰険な連中だぜ。 んで、古泉は予定通りヘリごと撃ち落としたと。まるで敵の手のひらで踊っていただけじゃねえか」 長門は少しだけ首を傾けて、 「仕方がない。主導権のすべてを握られていた。抗うことはまず不可能。その後、3日目朝にあなたたちを学校まで撤退させてから 戦車部隊で攻撃開始。そこで、朝比奈みくるとわたしが生命活動停止状態になる。 あとは、期限直前にあなたを殺害し、残るのは涼宮ハルヒ一人だけになるはずだった」 後半はほとんど敵のシナリオ通りにならなかったな。長門が超パワー発動で戦車を片っ端から撃破してくれたし、 俺たちも森さん、新川さんの活躍で――ああ、朝比奈さん(大)もな――敵を打ち負かせた。 「長門さんが情報操作能力を取り戻すことは明らかに想定していなかったんですね」 背後から聞こえてきたのは喜緑さんの声だ。長門は彼女に振り返ろうともせず、 「感謝している。一人では不可能だった」 「いえ、お互い様です」 礼を言いながら決して顔を合わせないところを見ると、どうもこの二人には決定的な溝があるらしい。 今回の一件では共同戦線を取ったが、あくまでも利害が一致したという理由から何だろうな。 今後二人が衝突なんて言う事態にはなってほしくないんだが。 と、喜緑さんが俺の前に立ち、 「そろそろ時間のようです」 そう言って校庭で疲れ切って寝そべっている生徒たちを指さした。彼らはまるで原子分解されるかのごとく、 霧状に身体が飛散し始める。 「帰還の第1段階が始まった。これが終了次第、わたしたちが続くはず」 「はず?」 長門の言葉に違和感を覚えた。まるでそうならない可能性が存在しているみたいじゃないか。 そんな頭の上にはてなマークが浮かぶ俺に、喜緑さんはいつものにこにこ顔で、 「最後に一つだけ問題が出ているんです。それはひょっとしたらこの世界を構築した者の目的が達成しているという可能性です」 「んなバカな。長門や喜緑さんのおかげで敵のシナリオは完全に狂ったんだろ? さぞかし、敵もあわてただろうよ。 目的が何だったか知らんが、これじゃ完全にご破算に決まっているじゃないか」 俺が抗議の声を上げると、今度は長門が立ち上がりながら、 「この世界から【彼ら】が去ったときに少しだけ意志を感じ取れた。間違いなく【彼ら】は目的達成を確信している」 「負け惜しみか、ただの強がりなんじゃねえか?」 俺の反論に喜緑さんは首を振りながら、 「今、帰還の第1段階が終わりました。続いて第2段階に入ります。ですが」 「わたしたちは帰還プロセスが開始されているが、あなたには適用されていない」 はっと気がついた。今、長門と喜緑さん、そして隣で寝息を立てている朝比奈さんは、 先ほどと同じように身体が霧状に飛散し始めていた。だが、俺の身体には全く変化がない。これはまさか…… 「今、この世界の制御権限はわたしにはない。別の人間によって完全に制御下に置かれている」 その長門の説明で俺は確信を持った。ハルヒだ。あいつが何かしでかしている。この後の及んで何を考えてやがるんだ―― 「――そうか。そういうことか」 俺は唐突に理解した。こんな最悪な世界を作り俺たちを放り込んだ連中の目的をだ。どこまでも陰険な奴らなんだよ……! 「あなたに賭ける」 ちりちりと消えつつある長門はいつぞやと同じ事を言った。あの時は何の事やらさっぱりだったが、今ではわかる。 やらなきゃならんことをな。そして、それは俺の意志でもあるんだ。 俺は隣で眠っている朝比奈さんを抱えると、長門に預け、 「朝比奈さんを頼む。それから元の世界に戻る過程で俺たちの記憶も消去されるんだろ?」 俺の問いかけに長門はこくりとうなずく。 「それはありがたいね。こんなばかげた記憶なんて頼んででも消してもらいたいぐらいだったし。 あと、長門自身の記憶も消去されるのか?」 「する。ただし、帰還後に何らかの形で情報統合思念体よりここであったことの情報共有が行われる可能性がある。 それをわたしが拒否する権限はない」 「拒否しちまえよ。何よりもお前の意志を最優先に考えればいいさ」 「…………」 長門は何も答えない。そんなに単純な話じゃないんだろうな。だが、聞きたくないことに対して耳をふさぐぐらいの権利は 認めてもらって当然だと思うぜ? ああ、それから、 「あと、万一元の世界に戻っても俺が違和感とか記憶の断片とかが残っていて、長門に何があったとか聞いていたら、 教えないでくれないか? ここの事を知って入ればの話だけどな。ま、俺がそう言っていたと言ったら、 そのときの俺も納得するだろ。こんなことは中途半端に知ってもつらくなるだけだからな」 「わかった。そうする」 もう長門の身体は完全に消えようとしていた。そして、最後にかけられた言葉。 「また部室で」 それだけ告げると、長門、朝比奈さん、喜緑さんは消滅した。 全く、鶴屋さんはまた学校で。古泉はまた部室で。長門もまた部室で、か。 俺は辺りを軽く見回して見たが、他には誰もいなかった。今この世界にいるのは俺と―― 「ハルヒだけか。とりあえず、あいつを捜すとするかな」 ◇◇◇◇ 「ハルヒ」 学校の屋上で呆然と立ちつくすハルヒを発見できたのは、学校探索を開始してから数十分後。 全く滅多に来ないような場所にいるもんだから見つけるのに時間がかかっちまった。 俺の呼びかけにもハルヒは答えようともせず、こちらに背を向けてただ学校周辺を見ていた。 とにかく、こっちから近づくしかないな。 「なにやってんだよ」 俺はハルヒの横に立つ。だが、ハルヒは顔を背けてしまった。屋上をなでる風が髪の毛を揺らした。 しばらく、そのまま時間が過ぎた。ハルヒはたまにしゃくりあげるように肩を動かしていたが、 決してこちらに顔を向けようとはしない。俺は嘆息して、 「なあハルヒ。辛いことはたくさんあっとは思うが、もう終わったんだ。これ以上ここにいたって意味ないだろ? とっとと元の世界に帰ってまたSOS団で楽しく――」 俺が口を止めたのは、唐突にハルヒがこちらに顔を向けたからだ。それは――なんというか―― ……なんてツラしてやがるんだ…… 絶句するしかなかった。ハルヒのこんな表情なんて見たこともなかった。言語なんぞで表現できるわけもない。 それほどまでに絶望的に染まった顔だった。 くそっ……忌々しい。ああ忌々しいさ! こんなばかげた舞台を作り上げた奴らが勝利を確信するわけだ。 ハルヒのこんな顔を見れば誰だってそう思うさ。なんて事しやがったんだ! ハルヒはしきりに俺に向かって何かを言おうとしているようだった。しかし、言葉にならないのか、 何かの思いが口の動きを阻害しているのか、口を動かそうとしてはまた手で押さえるという動作を繰り返した。 そして、ようやく口にできた言葉は、 「……自分が許せない……」 無理やりのどからひねり出した声。あまりに痛々しいそれは聞くだけでも苦痛を感じるほどだ。 だが、一つ言葉をはき出せたせいか、次々と口から声がこぼれ始める。 「死者117人。負傷者76人。これだけ犠牲を出しておきながらあたしは傷一つ負っていないなんて! あたしは何で無傷なのよ……」 ハルヒが背負ったのはSOS団のメンバーだけじゃない。クラスメイトの生徒どころか、この世界に放り込まれるまで 名前も顔も知らない生徒の命まで背負っていた。俺たちみたいに頭の中をいじくりまわされていたならさておき、 素のままだったハルヒが背負った重圧はどれほどのものだったのか。想像することすら適わない。 「最初はみんなを守れるって思っていた! でも途中から守りたいになって――そのうちできないんじゃないかとか、 何でこんな事やっているんだろうとか、最後には自分がバカみたいになってきて……!」 ハルヒの独白に俺はただ黙って聞いていることしかできなかった。 「これだけの犠牲を出しておいて、元の世界に戻った後にどんな顔をしてみんなに会えばいいのよ! できるわけないじゃない! あれだけ――あれだけ信頼してくれていたのにあたしは……あたしは!」 「ハルヒ」 とっさに錯乱寸前のハルヒを抱きしめた。それはもう強く強くだ。 俺自身も耐えられなかった。こんなに苦しむハルヒを見続けたくなかった。 抱きしめてもハルヒは全く抵抗もしなかった。ただ俺に身を預けてしゃくり上げ続けている。 俺は落ち着かせるようにハルヒの背中をさすりながら、 「もういい。もういいんだ。終わったんだよ。全部終わりだ。こんな悪夢を見続ける必要なんてない。 いい加減、俺も疲れたしお前も疲れただろ? そろそろ目を覚まそうぜ。起きれば、また何もかも元通りさ。 こんなバカみたいな悪夢なんてすぐに忘れるほどに遊べばいい。不思議探索ツアーでも何でもしよう。 俺はまだまだSOS団の一員でいたいんだ」 すっと俺とハルヒの身体が発光し始めた。そうだハルヒ、それでいい。帰ろう。またあの部室に。 「また……また、一緒に……」 「わかっている。もう何も言うな……」 意識が暗転し始める。ようやく終わってくれる。この地獄の3日間が―― ◇◇◇◇ これを仕組んだ者の目的。それは涼宮ハルヒという人間を精神的に追いつめ、この世界に閉じこめること。 それもハルヒ自らがそう望むようにし向けることだったんだ。今まで閉鎖空間を作り出し、 その中であの化け物を暴れさせていた時は、ストレスを外側に向けていた。だから、何かを破壊するという行動になっていた。 だが、今回はじりじりとハルヒは追いつめられていった。世界や他人に絶望する前に、まず自分に絶望するようになった。 最後にハルヒがたどり着いた先は元の世界への帰還拒否。こんなダメで無能な自分のせいでたくさんの人が傷ついたのに、 どうして無傷な自分が帰れるのか。一体どんな顔をして仲間たちに顔を合わせればいいのか。 そんな考えに陥れば、誰だって帰りたくなくなるさ。 その後に奴らが何を考えていたのか知りたくもないし、どっちみちもうわからないだろう。 ………… でもな、甘いんだよ。ハルヒが帰ってこないと困る人間だっているんだ。俺はまだハルヒと一緒にいたい。 あのときに味わったような喪失感は二度とご免だ。どんな手段を持ってもハルヒを連れて帰る。 ――それが俺の意志だ。 ~~エピローグへ~~
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「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
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もうとっくに梅雨が過ぎてもいい時期にもかかわらず いつまでもずうずうしく居座り続ける梅雨前線のせいでムシムシジメジメしている今日この頃 期末試験も終わり我が高校における高校生活最大のビックイベント「修学旅行」の季節がやってきた 「ついにやってきたわ修学旅行が!行き先はハワイかしら?それともロンドン?もしかしてイタリアとか!?」 俺はというと今日も今日とてこのなにか修学旅行を勘違いしている団長様に振り回される日々 「んなわけねーだろだいたいなんでうちみたいなしょぼい高校が修学旅行で海外なんて行けるんだ} 「涼宮さん先ほど僕たちの学年全員を集めて修学旅行の説明があったのをご存知ありませんでしたか?」 どうしてこの蒸し暑いのにこの爽やか男はここまで爽やかでいられるのか やつの爽やかさの源はなんなのであろうか1980円以内ならばぜひとも買い求めてみたいものだ 「説明?あーなんかそんなもんあったわねでも特におもしろそうな話はなかったわ」 ちがう面白そうな話も何もこの団長様は頭の中は100パーセント以上 むしろ他人の脳みそに侵略してまでも修学旅行をいかに楽しむかという考えで満たしていただけだ 「で、古泉君修学旅行の先は結局どこなわけ?」 「北海道ですよ」 「北海道ですよ」 そうわが高校の修学旅行の行き先は北海道なわけである ちなみに朝比奈さんは学年が違うため今回の修学旅行にはもちろん参加できないがそれが非常に残念である 「北海道ねぇ~まぁこの際行き先なんてどうでもいいわ。それよりも私たちSOS団の名前をどれだけ北海道の広大な土地中に知らしめるかよ!」 またまた修学旅行も俺にとっては大変なものになりそうである 「そうねぇ~北海道といえば何かしら?ちょっとキョンなんかないの?」 あいかわらずむちゃな振りをしてくる団長様だ もしもこの団長様がバラエティー番組の司会なんてしたものなら芸人たちはつぶれてしまうだろうに 「そりゃ北海道といえば、ラーメンとか新鮮な魚介類とかじゃないのか?」 「あんた食べることしか考えてないわけ?やっぱキョンなんかに聞いたのが間違っていたわ。古泉君はどう?」 「僕の場合も基本的にキョン君と一緒なんですがそうですねぇ。しいて言えば熊とかですかね」 「それよ古泉君!キョン北海道で熊を退治してらっしゃい!」 こんな調子で修学旅行の前日となってしまった 結局のところハルヒは何を考えているのか明かすことはなかった まぁいつものことか なんだかんだいってもやはり修学旅行は楽しみである 情けないことにあまり寝れずにあさを迎えるハメになってしまった 寝不足の重いまぶたをこすりながらも期待に胸躍らせながら空港へ 「平和に3日間過ごしたい」 これが俺の本音であるがもちろんその件に関してはまったく期待はしていない 「逃げずにまってなさいよ!修学旅行!」 朝からわけのわからぬことを叫んでいる団長様を空港にて発見 俺がもし修学旅行という物体ならばできるものならハルヒから逃げてみたいものだ 「キョン眠そうねぇ?もしかして修学旅行だからってワクワクして眠れなかったとか?」 朝からなかなか痛いポイントをつかれる にしてもなんでこいつはこんなにいつも元気なんだろうな まぁ今に始まったことでもないしな そこで俺はあることに気がついた 「ハルヒよなんなんだその荷物の量は?」 「秘密よひ!み!つ!」 ますます先が思いやられる 「とりあえず荷物が多いの」 そんなことは見ればわかる 「だがら荷物が多いって言ってるでしょ」 はいはい俺が持てばいいんだろ鞄を これまた情けないことに下僕体質というかなんというかすっかりハルヒに振り回されることになれてしまったのか 「ねぇキョン?実際に飛行機が墜落したらジェットコースターみたいで楽しそうじゃない?」 あまりにも不謹慎すぎる発言だ!しかもこいつの例の能力でそれが具現化してしまったらどうしてくれるんだ! 「おはようございます涼宮さん。キョン君も朝からご苦労様です」 眠気眼にこの笑顔はまぶしいな相変わらず 「そろそろ搭乗時間ですので移動をしたほうがいいかと」 古泉の後をついて行き飛行機の中へ ハルヒよ墜落したいなんて思ってないだろうな! なんとか飛行機も落ちることなく俺の命も落とすことなく空港に無事ついた 「SOS団もついに北海道進出よ!」 飛行機から降りても元気な団長さんであった その後バスに乗り込み北海道をぐるぐるとまわった その際にハルヒにいろんなことをさせられたのは今思い出してもおぞましいことばかりなのであえて伏せておきたい 乗馬体験中に俺の乗っている馬の尻をハルヒが叩いたりなんて悲惨なもんだった俺は決してジョッキーではない なんとか一日目の日程を消化しホテルへ向かうバスの中 朝からあれだけパワフルだった団長様はというと今俺のよこでかわいく寝息をたてて寝ていらっしゃる こうしてみていると抱きしめたくなるほどかわいいな・・・いかんいかん俺は何を考えているんだ相手はあのハルヒだぞ!? ハルヒの意外な一面を見て何か違和感のようなものを感じつつもバスはホテルに到着した あのときの違和感がじつはあんな感情につながったとはな 「おいハルヒ着いたぞ起きろ」 「んぅ~なによもう朝?」 「ホテルに着いたんだよ」 寝ぼけた団長様もなかなかかわいいなっておい何考えてるんだ俺! そんな突っ込みを入れつつもハルヒをつれてホテルへ 「じゃあこの後8時から入浴でその後~」 教師の長ぁ~い説明が終わりとりあえず今は自由時間だ どの修学旅行でも思うがなんでしおりに書いてあることをわざわざ教師たちは読み上げるんだろうな 自由時間こそ修学旅行最大の楽しみでもあるというのに 朝からずっと行動をともにしてきたハルヒだが当然泊まる部屋は別である 俺の部屋はというと国木田と谷口の3人部屋である 女子の部屋のある階とはだいぶ離れているがまぁ当然であろう 部屋についてすこし落ち着いて一瞬いやな予感がしたと思ったらケータイが光りだした もちろん相手は「涼宮ハルヒ」 「ちょっとキョン今すぐきて!5秒以内!やっぱ3秒とりあえず早く着なさい!」 相変わらずのお呼び出しだが今回はなんかいつもと違ってあせっていたように思えたがまぁろくなことではないだろうと思いつつハルヒの部屋へ 「ゴキブリよゴキブリ!早く退治して!」 おいまてハルヒよなんでゴキブリが出たら俺を呼ぶんだ 第一北海道ってゴキブリいないはずじゃないのか 「で、どこに逃げたんだそのゴキブリは?」 「あっちのほうよ」 にしてもハルヒがゴキブリ嫌いだとは意外だったな そんなことを考えつつゴキブリを探すとあることに気がつく なんとハルヒが若干涙目で俺の腕にしがみついてる! バスの中であんなこと考えてたせいか結構これはダメージでかい しかも見慣れぬ部屋着姿だ 「きっとカーテンの裏よ」 そこで俺はカーテンをめくってみることに するとそこにはゴキブリではなくただ一枚オセロが黒いほうを上にして落ちているだけであった 「一体これはどういうことだハルヒ?」 「ごっ、ごめん。本当にゴキブリだと思って・・・。」 どうやら今回はハルヒが仕組んだわけではなく本当にゴキブリだと思ったようだ にしてもハルヒがこんなに素直なんて本当に怖かったんだろうな。 「いいよ俺もゴキブリは苦手だし実際に本物じゃなくて安心している。それにしてもなんでお前の部屋は誰もいないんだ?」 「先にお風呂に行ったのよ。あたしも行こうと思ってスーツケースをあけてたらゴキブリに気づいて」 それにしてもこいつに女子の友達なんかいたか? 「ねぇキョン!お詫びにジュースおごってあげるから少し外散歩しない?」 「こんな時間に抜け出すのか?先生たちにばれたら大変だぞ?」 「このあたしの誘いを断る気?そんなのばれなきゃいいのよ」 もういつものハルヒに戻っていた 俺も実際特にすることもないのでハルヒの言うとおり窓から外へ抜け出した 「いいわねぇ~北海道の夜って涼しくて」 ホテルの外は少し車の走っている程度の道が有るくらいだったが 車のヘッドライトの明かりに映されるハルヒの姿はとても輝いて見えた。本当にキレイだった 「なっ、何見てんのよ?」 ハルヒに見とれていたことをハルヒに気づかれてしまった 「いや、特になんでもない」 とっさにごまかしてみたがムリであろう 「怪しいわねぇ~・・」 ハルヒに見つめられていた次の瞬間ハルヒは俺のポケットから財布を抜き取り走り出した 「お、おい!」 「返してほしければ追いついてごらんなさい!」 まるでいたずらをした子供のようにハルヒは笑っていた って最初はそんな余裕をかましていたがハルヒの足は速かった 普通こんなとき全力疾走しても追いつけない速さで走るか? 「ハァハァ。 ちょ、まってくれ 」 「情けないわね~」 ハルヒの油断した瞬間に俺は財布に手を伸ばした するとハルヒはバランスを崩してしまい転倒 俺も引っ張られるように転んでしまった 俺はハルヒを守ろうとしたんだ。これは本当だぞ そう、ハルヒを守ろうとして右手でハルヒの頭を抱え込むようにして俺はハルヒの上に倒れこんだ まぁつまり抱きしめているような状態だ 「イテテテテ・・・。」 「イッタ~ちょっとキョ・・」 すぐにハルヒを離したが助けようとしたのは事実であるが結果としてハルヒに抱きついてしまった 蹴りでも喰らうと覚悟をした 覚悟をして目をつぶったが何もこない おそるおそる目を開いてみると ハルヒが頬を赤らめて座っているだけであった 「ご、gおあ、ごめん。そそんな下心とかはなかったんだぞ」 俺のいいわけもハルヒの耳には通っていないようだった 「ハルヒ?」 声をかけてようやくハルヒは気がついた 「なっなにしてくれたのよ」 その顔は怒っているというよりもむしろ照れているように俺には見えた 俺は立ち上がりハルヒに手を差し伸べた ハルヒは俺の手をとるが下を向いたままであった 「ねぇキョン?」 「なんだ?」 「あたしあの丘の方へ行ってみたい。」 ハルヒに手を引かれるまま俺たちはその丘のほうへ ふもとに看板があったがどうやらこの上には公園があるらしい 「暗いから足元気をつけろよ」 「大丈夫、こうやってキョンに掴まってるから」 なんとかケータイの明かりを足元に集め俺たちは公園を目指して歩いていった ふもとから見るのと違って実際に上ってみるとなかなかの距離があった その間俺とハルヒはさっきのことがあってかほとんど口を聞くことが出来なかった その空気を乗り越え山道を乗り越え俺たちはようやく頂上の公園にたどり着いた そこから見える景色は言葉では言い表せないほど美しかった 光り輝く街もさることながらやはり 「海 山 空」 北海道の自然の景色に勝るものはないだろうと思った 「きれー」 「あぁそうだな」 俺たちは景色に見入ってしまっていた 俺の左側に立っていたハルヒがだんだんと俺のほうへ近づいてくるのを感じた 「ねぇキョン。」 「なんだ?」 「私たちが出会ってからもうだいぶ経つね。」 「あぁそうだな。」 「最初ね、キョンに会ったときはまたつまらない男だなと思ってたんだ」 「俺も似たようなもんだ。最初にハルヒに会ったときはなんなんだこいつは?と思ったからな」 「でもね、今ならそんな最初に思ったことを取り消してもいいわ」 今ハルヒはなんと言った?もしかしてこのシュチュエーションでこの流れ。もしかしてもしかするのか!? そんな俺の自意識過剰もはなはだしいよな だがあのバスでハルヒの寝顔を見てからというもの俺の中で芽生えた感情はやはりハルヒに対する恋心だったのか? やけにドキドキする 「あぁ」 特に何もハルヒに言い返すことが出来なかった「あぁ」ってなんだよ「あぁ」って! 「それでねキョン・・」 ハルヒがまた一歩近づいてくる 俺の胸の高鳴りはピークをゆうに超えている ドキ・ドキ・ドキ ハルヒが近づいてくる ハルヒの匂いが感じ取れる 次の瞬間俺は目を閉じた そしてハルヒは・・・ パシャ! ?パシャ!って あろうことかハルヒは俺のキス顔をケータイで撮影していた! 死にたい!死ぬほど恥ずかしい!いっそ俺を殺してくれ 小悪魔のような笑顔でハルヒが微笑む 「べーッ!」 「ちょ、ハルヒ!」 「私の唇とキスなんてできると思ったの?」 死にたい死にたいお願いだ誰か俺を閉鎖空間に閉じ込めてくれ 俺はハルヒに対して怒る気力もなかった 「そ、そんな・・」 俺はうなだれたそれは恥ずかしさから来るのだろうかそれとも一方的な片思いに落胆したのだろうか 「ちょ、ちょっと最後まで人の話はききなさいよ勝手にうなだれてないで」 ハルヒが何か言っていたが聞こえなった 「あたしは別にキョンが嫌いとかそんなんじゃないのよ!」 ????????? 「ただ、」 またしても赤くなり下を向くハルヒ 「ただ?」 「ただ、お互いの気持ちも伝えてないのにっておもって・・・」 ハルヒよハルヒ本当にその言葉を信じてもいいのか?俺はもう次にさっきのようなことがあっても立ち直れるほどHPは残っていない 「ちょっとキョンきいてる?」 「あぁ」 「じゃあ言うからね。あたしはキョンが好き。キョンがいなければ毎日今のように楽しい生活なんてできてないと思ってる 今のあたしはきっとキョンなしではいられないと思うの。だからこんな女だけれども一緒にいてほしい。」 下を向きもっと赤くなるハルヒ かわいいかわいすぎえる!今すぐに抱きしめたい! 「お、俺もハルヒ、お前が好きだ。なんだかんだでハルヒに振り回されたりもしたが今はやっぱりハルヒといるのが一番楽しい 俺の気持ちも一緒だ。俺もハルヒと一緒にいたい」 そうして俺はハルヒを抱きしめた そして俺は少し屈み、ハルヒは背伸びをし唇を重ねた その光景を北海道の美しい光景が見守っていてくれた 終わり
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さくさく。 鉛筆を削る小気味いい音が静かな部屋に響く。 木と芯の香りがひろがる。 鉛筆を削るのは好きだ。 僕は勉強をする前に鉛筆を削ることを習慣にしている。 丸くなった鉛筆の先を削ると自分の中の何かも研ぎ澄まされていく気がする。 心を空にするこの瞬間は癒される。 ―――高校生活は僕にとって期待していたものではなかった。 女同士の上辺だけの付き合い、そんなのが嫌だった。 キョンと過ごした中学校生活は楽しかったな。 机の中にしまってあったキョンの写真を眺めながらそう思い返した。 けれど楽しかった過去の思い出は僕の心の暗がりをより強調させるだけだった。 かりかり。 仕上げに鉛筆の芯を削る。 鉛筆の芯を削るのは好きじゃない。 カッターの刃で芯を削るのは、黒板を引っ掻くような感覚に似ている。 まるで皮膚の奥底にある神経を削り取っているようで、ぞっとする。 僕はキョンと似ている。そっくりだと思う。 容姿的なことではなく内面的なものだ。 だからキョンと喋っているときは心が安らんだ。 僕に兄妹はいないが、きっと兄か弟がいたらこんな感覚をもたらしてくれたんだろう。 キョンは僕にとってそんな存在だった。 キョンと同じ学校に行きたかったな。 彼はどんな高校生活を送っているんだろう。 恐らく中学のときと同じだろう。 相変わらずまだ世を捨てたようなつまらなそうな眼をしてるんだろうね。 僕は彼のそんな眼が好きだった。 でも本当に好きだったのは僕と喋るときに見せてくれる眼だ。 僕の考えを読もうとするような、好奇心の眼差し。 僕だけに見せてくれる、特別な眼だ。 ある日偶然キョンと出会った。 キョンはちょっと驚いた顔をしていたし、僕も少し意外だった。 僕は自転車を駐輪所に止めに行くところだった。 出会ったのは駅前である。 「やあキョン、久しぶりだね」 「佐々木か」 休日をもてあましているのかと思いきや、 どうやらキョンは友人と待ち合わせをしているようだった。 そう――友人、か。 誰か分からないけどちょっとだけその友人に嫉妬した。 そう思いたくないけど。 でも、羨ましかった。 僕はキョンに少しわがままを言った。 君の友達に会わせて欲しい、と。 わざわざ会って軽い会釈を交わすのは煩わしい気持ちだったが、 もう少しだけキョンと話していたかった。 仲間との約束時間が迫っていると聞いて、僕はキョンと一緒に集合場所に向かった。 いったいどんな友達なんだろう。 中心にいたのは黄色いカチューシャを着けた女の子だった。 キョンとは正反対の印象を受ける活発そうな女の子。 名前だけは知っていた。涼宮ハルヒさん、本人を見るのは初めてだ。 涼宮ハルヒさんの存在を知ったのは、橘さんと出会ったのと同時だった。 橘京子さんと出会ったのは数週間ほど前だった。 学校の校門で僕のことを待っていたらしい彼女は、 僕を近くの喫茶店まで連れて行くと僕に話を聞かせてくれた。 「あなたは神様っていると思いますか?」 そういって橘さんは僕に彼女の写真を見せた。 どこにでもいるような普通の女の子といった印象を受けた。 「かみさま?」 橘さんが僕に語ってくれたことは、にわかには信じられない話だった。 世界を思うまま造り替えてしまう力を、隣の高校に通う普通の女の子が持っていること。 そんなことを橘さんは語った。 そんなことを思い返した。 涼宮さんは彼が遅れたことに対して文句を言って、僕の方に眼をやる。 ちょっと苦手なタイプかな…。 「誰、それ」 涼宮さんは僕に一瞥をくれるとそうキョンに向かっていった。 「親友。」 キョンより先に、僕の言葉が無意識に口から飛び出した。 誰それって…、初めて会う人にかける言葉がそれなの? 正直言ってちょっと驚いた。 キョンってこんな子と付き合うんだ。 やっぱり苦手だな、こういう人。 楽しそうだね――キョン。 キョン、君は何でそんなに楽しそうなの? 僕は全然楽しくなんて無いんだよ。毎日になんの魅力も感じない。 キョン、君は僕と同じじゃなかったの?――キョン なんだか、ここは僕の居場所じゃないな…。 僕は電車の時間が迫っていることを口実にその場を離れた。 ある日僕は橘さんと一緒に遊びに出かけた。 僕は面倒だったが橘さんの友達ごっこに付き合っていた。 はたから見ればただの仲の良い友達に見えるだろう。 でも、所詮は僕は橘京子にとって利用されるだけの存在。 でも橘さんと過ごすのは嫌いじゃなかった。 上辺だけの付き合いが面倒でも、 橘さんと僕は普通のどこにでもありふれた関係じゃなかったし、 彼女の言う機関という得体の知れないエージェントという肩書きは いくらか僕の退屈な日常をスリリングにしてくれる気がした。 「佐々木さん、あの話考えてくれたかしら」 「あの話?」 「ほら、涼宮さんの力の話のことです」 「ああ、その話か――」 橘さんは事あるごとに涼宮さんに変わって僕に神様になって欲しいと言ってきた。 やれやれ、またその話か。 その話が出るたび、僕は曖昧な言葉でお茶を濁していた。 正直橘さんのこういうところは好きになれなかった。 僕とこうやって仲良くするのもそのためなんだよね。 仲の良い親友なんて言葉、反吐が出そうだった。 疲れた。 家に帰ると僕はベッドに倒れこんだ。 最近だるい…体力的にだろうか、それとも精神的にだろうか。 予備校に通うのも楽ではない。 なんでだろう、中学のときはそうでもなかったのにな。 僕は枕元にあった小説を手に取るとそれを眺めた。 サスペンス物だ。普段こういった類の本は読まないのだが、 電車の中で何か退屈しのぎになるものが欲しかったので、 駅前の本屋で適当に手に取ったものだった。 殺人に快楽を覚える殺人鬼が売春婦を次々と殺していく話だった。 グロテスクな描写が多い…。 やだな… 僕は読むのをやめた。 もう今日はこのまま寝よう。 眠りに落ちて行く感覚に身を任せた。 ここはどこだろう。 辺りを見回す。 薄暗くどんよりとした空間だった。 様子を見ようと脚を動かしたが、思うように動かない。 気付くと僕はいつも寝ている自分のベッドにくくり付けられていた。 隣にはぼーっと人影が現れ、僕を見下ろしていた。 その大柄な男は、右手にぎらぎらと光る大きなナイフを持っていた。 男はナイフを降り上げると僕を切りつけようとする。 やめて! 助けて!! じたばたと暴れが身体は思うように動かない。 すると視界の隅にまた別の誰かがいるのが見えた。 キョンが立ってこっちを見ていた。 僕はキョンに向かって助けを求め叫んだ。 助けてキョン!!殺される! キョンの隣にはあの女がいたんだ。涼宮ハルヒ。 「なにぼーっとしてるのよキョン。さっさと行くわよ!」 「ああ」 彼女はキョンの腕をひっぱる。 キョン!行かないでよ!!助けて!!! 僕の叫び声は届かない。 ニタついた男がナイフを僕に向かって振り下ろした。 「うわああっ!!!」 ゆ、ゆめ!?はぁはぁ! 手が、がたがたと震えている。 こ、こんなことはじめて、 視界がだんだんと狭くなって行く。 はきそう おお、おちつかなくちゃ 明かりをつけようとベッドから降りるが脚がもつれて思うように立てない。 はぁはぁ! 這うように机の上のスイッチを入れると なんとかいすに座る 呼吸を整えるために深呼吸をする。 だめ、息がうまく吸えない。 はぁはぁ! 心臓がばくばくいっているのが分かる。 全身の血管が暴れまわってる。 息を止めた。 うっ、ぐっ…ふっ!はぁ…はぁ…… 少し落ち着いたのか、周りがだんだんと見えてきた。 時計は午前3時を指していた。 いやな夢。最悪だ、思い返したくも無い。 キョン――助けて…。 眼を閉じるとキョンの隣にいたあの女の顔が浮かぶ。 涼宮ハルヒ――ニタついた顔をして僕を眺めている。 また手ががたがたと震える いきが、うまくできない… ええんぴつを、けけずろう、そうだ、おおおちつこう さくさく…かりかり、カリ、がりっ、、ざくザクッ。はぁはぁ だだめだ、折れてしまった、、かわりのを がりがりがっ、ググ…、めき…ばきっ! 痛―――っ!! 誤って指を切ってしまった、血がどくどくとあふれ出す。 ティッシュをつかみ取ると指を押さえつけた。 はぁ…はぁ…… おちつけおちつけ。 時計の秒針を刻む音が聞こえてくる。 うぐっ……えぐっ… 気付かなかったが、いつからか僕は泣いていた。 キョン、キョン――! 涙があふれた、 あれは夢ではないのだ。 もうキョンは、僕のところには来てくれないんだ。 こんなのって辛過ぎるよ。 こんな世界――いやだ こんなの、誰が望んだのさ。 僕の頭の中にあの女の名前が浮かんだ。 涼宮ハルヒ これは、彼女が望んだ世界。 彼女がキョンを僕から奪ったんだ…。 あの女が。 僕の指からは血がぽたぽたと足もとに滴り落ちた。 僕はキョンと頻繁に会うようになった。 といってもお互い待ち合わせてなんかじゃないけれど。 たまに会うと喫茶店に入り二人で話をした。 キョンは自分の部活のことをうれしそうに語った。 本当に――楽しそうに――。 なんでさ、何がそんなに楽しいのさ――。 キョンは僕がいなくたってそんなに楽しいの? ねぇもっと僕の話をしてよ、キョン。 昔の話をしようよ、 もっと昔の眼で僕を見てよ。 キョンは僕のそんな気持ちを分かっていない。 ハルヒが、ハルヒが――― 涼宮ハルヒ、今日は12回も彼女の名前を出したね。 あの女さえいなければ君はもうその不愉快な名前を口にしないでくれるのかな。 キョンを蝕むあの女さえいなくなれば。 いなくなれば、いなくなれば、あいつさえいなくなれば! 「佐々木?」 「うん?」 「どうした?俺の話つまらないか?」 「そんなことないさ、とっても興味をそそられるよ。」 「それより佐々木」 「なんだい?」 「お前どうしたんだその指。全部包帯だらけじゃないか。」 「あ、これは。最近料理を作りだしたのだが、まだ慣れないもんだからね…この様さ。」 「そうか」 「それよりもっと聞かせてよ、キョンの話を」 橘さんが家に遊びに来た。 いつものことだ、僕はあがるよう橘さんに言い、お茶とお菓子を出した。 今日は何をして遊ぼうか、橘さん。 天気がいいから買い物にでも行こうか そう言って彼女の方を見た。 「あっ、もしかしてこれって」 橘京子が何気なく机の上にあったキョンの写真を手に取った。 気付いたときには体が勝手に動いていた。 「キョンに触るなっ!!」 「え?」 僕は無意識のうちに橘さんを突き飛ばしていた。 「きゃっ!」 はずみで鉛筆立てがガシャっと音を立てて倒れた。 はっと我に返った。しまった、橘さんは何も悪くないのに。 「橘さん、ごめんね、いきなり突き飛ばしたりして!痛くなかったかい?」 「だ、大丈夫なのです…」 「本当にごめんよ。」 でも、次からは気をつけてね。 キョンに触れていいのは、僕だけなんだ。 僕は優しく橘さんを抱きしめた。 橘さんは、少し震えていた。きっとびっくりしたんだろう。ごめんね、今度からは気をつけるからね。 「さ、佐々木さん、それ…」 橘さんが指差したのは弾みで開いた僕の机の引き出しの中身、 血のりがついて錆びかかっていたカッターと 血の染み込んだ無数の鉛筆の破片と僕の指の爪や表皮 切り刻んだ涼宮ハルヒの写真だった。 ああ、これ。 なんでもないよ、橘さん。怖がらなくても大丈夫。 なるべくなら見られたくなかったけれど 安心してよ キミはこんなふうにはしないからね。 僕は橘さんの耳元で囁いた。 ねぇ橘さん。わたしが神様になるって話、うけてあげてもいいよ 待っててよキョン。 また二人で一緒に過ごそうね。 今度は一生誰にも邪魔されないところで二人だけでさ。 FIN
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涼宮ハルヒの遡及Ⅰ 『ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』 と、高校入学の初顔合わせの自己紹介の場で、至極真剣な表情でのたまった女がいたとするならば、たとえ、そいつがどんなに可愛くてスタイルが良かろうとも、大多数の男はコナをかけるのに二の足どころか三の足、四の足を踏む……いや、それ以前に、決して関わらないようにしよう、と心に固く誓うことだろう。 むろん、俺もそうだった。いや、そのはずだったんだが…… 「こらキョン! あんた聞いてるの? 今、大事な話をしてるところなのよ!」 「心配するな。ちゃんと聞いている。明日の不思議探索パトロールのことだろ」 「そうよ。で、あたしが何て言ったのかも聞いてたの?」 それはまだだろ。と言うか、それを今から言う気だったろうが。 「あら、ちゃんと聞いていたのね。意外だわ。なんとなく失礼なモノローグを頭の中に流しているように見えたから聞いてないかと思ってた」 む……なかなか鋭い奴だ…… 「んじゃまあ続きだけど」 気を取り直したハルヒが再び勝気満面の笑顔に戻って、 「明日の不思議探索のテーマはUMAと心霊現象よ! と言う訳で、午前9時にいつもの駅前集合ね!」 んまあ、関わっちまったもんは仕方がない。などと開き直っている俺がいる。 あの十二月の出来事で俺は自分の気持ちに気づいてしまったんだ。冒頭のような感想を持っていた入学当時の俺が今の俺を見たら何と言うのか、なかなか興味深いことでもあるのだが、今の俺から言わせれば当時の俺なんざつまらない奴に映ってしまうだろうから、人間、変われば変わるものだと妙にしみじみしてしまう。それはハルヒにも言えることだし、長門、古泉、朝比奈さんも同じだな。みんなSOS団発足当時と比べれば明らかに変わったと言っても過言ではないだろう。 ん? ああ、ハルヒが何で宇宙人、未来人、異世界人、超能力者って言わなかったか、ってことか? そりゃそうだろ。 なんたってハルヒはもう、俺たちの正体を知ってしまったからだ。 長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者で、自分に新しい世界を創造できる力があるということをな。知らないことと言えばハルヒは自分が想像したことを現実化できる力を持っている、てことくらいだ。 むろん、俺がジョン・スミスだということも知っている。もっともだからと言って俺たちの関係が変わる訳じゃない。 むしろ、ハルヒが望んでいたのはこういう団体なんだから最近は機嫌が最高潮にいい日しかないくらいだ。 さらに加えるなら、ハルヒは異世界人との邂逅も果たしている。 ただ、異世界人は少し勝手が違っていて、この世界の存在ではないだけに、ハルヒが望んでもハルヒの力の影響を全く受けないものだから、そうそう出会えるものではないらしい。なんたってハルヒもこの世界の存在だからな。てことはこの世界じゃない世界まではその力が及ばないって訳だ。 とと、話を戻すが、どうして今だに不思議探索なんぞをやっているかと言えば、ハルヒの不思議への欲求が目的対象を見つけたからと言って、それで弱くなることはないからだ。見つけたなら次の不思議へと突っ走る奴だしな。 だから探索目標が変わったのさ。 ところがだ。 ハルヒの夢が叶った現実を快く思わない人間というものもいるんだよな。 ……いや違うな…… その人たちは別段、ハルヒを悲しませようとか困らせようとかなんて微塵も思わなかったはずだ。それは断言してもいい。 ただ、都合が悪かったんだろう。自分たちにとってではなく、少なくともハルヒと俺にとっては……いや、もしかしたらSOS団にとってもか? だからこそ、心を鬼にせざる得なかったんだろうな。 俺は今、心からそう思う。 てな訳で、話は今回の不思議探索パトロール当日の午前七時半ぐらいから始まるだろうか。 いきなりで申し訳ないが、ちょうど着替えが終わった俺は目を丸くして口をぽかんと開けて絶句した。 「さて、質問があるけどいいかしら?」 なぜなら、俺の目の前には見覚えはあるのだが、もう二度と会えないと思っていた人物が、文字通り、突然、現れたから。 癖っ毛でやわらかそうな腰まで届こうかという頭髪を、一度、さらりと掻きあげて、 「あなたはあたしの知ってるキョンくん、よね?」 「ア……アクリルさん!?」 艶やかな髪をふわりと揺らす彼女を俺は見紛うはずがなかった。 「ふぅ、よかった。今度こそ蒼葉(あおば)の補正がうまくいったみたい。やっと、ちゃんと目的地に着いたのね」 苦笑とも自嘲ともとれる笑顔を浮かべる彼女を俺は忘れるはずがない。 容姿端麗、プロポーション抜群、山吹色のノースリーブシャツに、スカイブルーのホットパンツ、までならなんとも艶めかしい姿を想像できても、ヘアカラーが桃色でマントを羽織ってた日にゃ、コスプレ会場以外であれば絶対に頭を疑われるような風体だったりすることだろう。 しかし、あくまでそれはこの世界で、のことだ。 本来、彼女が住む世界ではそこまでの違和感はないはずである。 なぜならば。 この人は異世界に生きる魔法使いだからだ。 言っておくが嘘でも冗談でもないぞ。 彼女が出した名前、蒼葉さんとは、ハルヒの創り出した閉鎖空間で出会い、その後、俺がハルヒに関わってしまったばっかりに得体のしれない存在に目を付けられて蒼葉さんと彼女が住む世界に飛ばされてしまったことがあったんだ。その時は、ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉の尽力と蒼葉さんとこの御方の協力で俺を元の世界に戻してくれたのである。その時に使用したのが『魔法』だったし、俺は彼女が魔法を振るう姿もこの目でしかと見た。 だから間違いない。 しかし、彼女たちは言ったはずである。自分たちと俺たちが再会する可能性は皆無に等しいと。 なら、どうして今ここに現れた? 「はい、モノローグ説明ごくろうさん。オリジナルキャラクター登場シリーズでしかも連作っぽいから色々と面倒なのよね」 「いや、それは言ったら身も蓋もないと思うのですが?」 「仕方ないでしょ。あなたは大丈夫でも、オリジナルキャラクターを快く思わない人も決して少なくないみたいで、賛否両論。しかも両極端だし……って、いつまでもこの話題で引っ張るわけにもいかないわ」 それもそうですね。んじゃまあ話を戻しますけど、 「どうしてアクリルさんがこの世界に……?」 当然の疑問をぶつける俺。 「うん。ちょっと困ったことが分かったんでどうしてもこっちに来なきゃいけなくなったのよ。なかなか大変だったけどね。ここに着くまでに何度別の並行世界に辿り着いてしまったことか……まあ何にせよ、ようやくうまくいって良かったわ」 困ったこと? 「覚えてる? キョンくんをこっちの世界に戻すときに話した後遺症のこと」 「ああ……あれですか……」 俺は思わず苦虫をつぶした顔をした。 それは仕方がない話で、蒼葉さんとアクリルさんが俺をこっちの世界に戻す際に使った魔法、まあ、それしかなかった訳だから仕方ないっちゃ仕方ないことではあるのだが、その魔法=召喚術の影響で俺はハルヒと、そして今は長門にも絶対服従の責務を背負ってしまっているのである。その所為で毎日、どうにも苦労が絶えないんだ。なんせあの二人にまったく逆らえなくなってしまったわけだからな。どんな無茶でも聞いてしまっている俺が忌々しい。何度か本気でこの世界に戻って来なければ良かった、なんて考えてしまったほどだ。 そんな俺の表情が目に入ったアクリルさんがウインクをしつつの笑顔で続ける。 「それを是正しに来たのよ」 って、なんですと!? むろん、俺は驚嘆と希望で、比喩表現ではあるが胸が朝比奈さん並に膨らんだ気がしたぞ。 「で、何でこんな格好しなきゃいけないの?」 「ええっと……アクリルさん、ご自身の姿形をちゃんと自覚していますよね……?」 ここはアクリルさんが本来住んでいる世界ではない。 桃色の髪もマントも肩当ても標準装備のはずがない。ならばこっちの世界の流儀に合わせてもらわないと後々面倒なことになる。 しかも、このアクリルさんから「今回は別に慌てる必要がないから、少しこの街だけでいいんでこっちの世界を案内して」とせがまれたのである。 理由か? んなもん決まっている。ただの好奇心だ。 というか、俺だってもし、絶対に元の世界に戻れる保証があるなら、アクリルさんの住む世界を案内してほしいと思うことだろう。 それだけ『異世界探検』という行為は胸を躍らせるものだ。それはアクリルさんも同じなんだ。 しかしだからと言って事情を知っていれば『異世界人スタイル』で割り切れるだろうが、圧倒的大多数の事情を知らない人間が見ればアクリルさんは異様な姿にしか映らないことだけは確かなんだ。しかも案内を頼まれたということは俺はご一緒しなければならず、万が一、SOS団以外の知り合いに見られてしまえば、次回の登校からは疎外感たっぷりの視線に晒されるであろうことは想像に難くないんだ。一応は社会性を大事にしたい俺としては、それは是が非でも避けたいので変装をお願いしたのである。 という端的な説明をアクリルさんにはもっと丁寧かつ慎重に伝えた。 「分かったわよ。なら仕方ないわね」 ふぅ、どうやら理解してくれたようだ。証拠に彼女は髪を黒く染め、黒のカラーコンタクトを嵌めている。 「……別にあたしはどっちでも構わないんだけど」 ん? 何か言いました? 「ああ、聞こえても聞こえてなくても大丈夫よ。大した話じゃないから」 そうですか。 おっと、それとアクリルさんって呼び方も変えていいですか? 「何で?」 「蒼葉さんなら違和感ないんですけど、この世界、と言うよりこの国ではカタカナ名前はまだまだ稀なんです。怪しまれないためにも別の呼称の方がいいかと」 「ううん……そんな大袈裟なことでもないと思うんだけどなぁ……だいたいキョンくんだってカタカナ名前じゃない」 大袈裟なことになります! その髪の色と名前は明らかに不自然なんですから! あと俺は本名じゃなくてニックネーム! 「ふうん、そうなんだ。でもまあ郷に入っては郷に従え、ね。キョンくんの提案を受け入れましょうか。で、あたしのこと、何て呼ぶことにするの? あ、キョンくんの本名はいいわ。覚えても多分、今回の任務を終えて向こうの世界に戻ってしまえば、もう会えない可能性の方が圧倒的に高いし」 なんかアクリルさんの態度がどうにも釈然としないんだがまあいいとしよう。 世界が違うんだから常識が違うのかもしれん。 って、向こうの世界にも『郷に入っては郷に従え』なんて言葉があるんだな。 「そうですね。『さくら』さん、というのはどうでしょう? この国の代表的な花でみんなに愛されています」 「なるほど。その花の色が桃色な訳か」 ぎく。 「気にしなくていいわよ。別に怒ってないから。そもそも向こうの世界でもあたしの一番の特徴はこの髪の色なんだから今さらってやつよ」 その割には少し目が怖いような…… あっそうか。そりゃそうだよな。俺だって慣れてしまっているところはあるが『キョン』って呼ばれるのはあまりいい気しないもんな。それと同じだ。 「何か思い当るところがあるみたいね。ま、いいけど。ところでとりあえず今日はこっちの指定で案内してもらえないかしら?」 「え? どこに?」 「んと……前にキョンくんが魔石を通じて交信していた相手で、あたしからは顔とかはよく見えなかったんだけどキョンくんと抱き合ってた女の子が居るところ……名前なんだっけ?」 だ、抱き……!? 「そ。あの女の子の名前」 …… …… …… 『抱き合っていた』はスルーですかーそうですかー。 「どんなツッコミを期待していた訳?」 い、いえ……別にそう言う訳では……!? 「だったらあの子の名前教えて。もう会うことない、って思ったから覚えてないのよ」 そう言えば蒼葉さんも同じようなことを言ってたな…… 「ハルヒです。あ、そう言えば今から集合なんですけどアクリ……じゃなかった、さくらさんもご一緒にどうです?」 「ん? お邪魔じゃないの?」 「いや……そういうんじゃないんで……その……他のツレもいますから……」 「なんだ。みんなで遊びに行くってやつか」 「まあ……似たようなものです……」 俺は苦笑を浮かべるしかない。遊びに行くことで間違いはないのだろうが、普通の高校生がやるような遊びじゃないしな。 「んじゃあ早速、行くわよ」 「へ?」 そんな俺の心の内を知らないアクリルさんは俺の手を取って、窓を開けた。 って、まさか! 「集合場所までの案内よろしく!」 満面の笑顔を浮かべて、アクリルさんは開け放した窓から飛び出した。 「レビテーション!」 真っ青に晴れ渡った空の下へと、俺たちは舞い上がったのである! つか怖っ! 速っ! て、手を離さないで下さいね! ね! 涼宮ハルヒの遡及Ⅱ
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俺は勝利を確信した。何と銃弾が、朝倉を貫通したのだ。このときの俺は、すべてが終わったのだとそう思っていた。 「なかなかやるじゃない、私をここまで本気にさせるとはね」 「これは驚きですね」 「どういうことなんだ」 「長門さんの攻撃が聞かないと行ったところでしょうか」 そんなこと見れば分かる。まったくどうすりゃいいんだよ長門。 「僕の出番ですね」 そういって古泉は、赤い玉を手のひらに浮かべた。 そして古泉は、バレーボールのサーブの体勢をとって攻撃した。 「ふ~んもっふぅ」 朝倉はびくともしない。さあどうする古泉。 「これも駄目か。ならば、セカンドレード」 しかし、朝倉はあまり攻撃をくらっていない。 「あなたの力はそんなものなの。つまんないの、まあいいわ死になさい」 そういって朝倉のナイフが古泉に突き刺さった。 「古泉……しっかりしろ古泉」 「涼宮さんを頼みましたよ」 「分かったよ、だから死ぬなよ」 「涼宮さんを取り戻すことが出来れば僕は行き返れます。だから頑張ってください」 そういって古泉は、死んだ。くそ、どうすりゃいいんだよ。 「そろそろいいかな、私も時間がないの」 そういうと俺の体は動かなくなっていた。反則だろこういうのは。 しかしそのとき見覚えのある姿が俺の視界に入った。ハルヒだ。 「キョン、キョンなのね」 そうだよキョンだよ、でも今声が出せないんだよ。 「朝倉さんキョンに何してるの」 こいつはカナダに行ったはずの朝倉がここにいることを不思議に思わないのか。 「何って、キョン君を殺すの」 「何で、何でキョンなのよ」 「邪魔だから、じゃあ死んで」 ナイフが俺の目の前に飛んできた。しかし、ハルヒのおかげでナイフは当たらなかった。 するとハルヒが、「私を怒らせたみたいね朝倉さん」 気づいたら朝倉の姿はなかった。まさか、ハルヒのとんでもパワーがここまでとはね。 「さあキョン、帰るわよ」 「ああ、帰ろう」 古泉のことが気になるが、大丈夫と判断した俺は閉鎖空間を出ることにした。 すると古泉の言った通り、古泉がそこにいた。 「おう、大丈夫だっだのか」 「まあ何とかと言ったところです」 「それで鍵は全部集まったことになったのか」 「そのようですね。しかし、それにしては何も起きませんね」 「長門、どうなっている」 「あなたは確かに鍵を集めた。しかし、それを納める場所、つまり鍵穴のようなものを集めていないと考えられる」 分かりやすい説明をありがとよ長門。だが、またひとつ謎が出来たな。 「それで長門、鍵穴をどうしたら手に入るんだ?」 「おそらく急進派のボスが持っていると思われる。手に入れるには、ボスを倒さなければならない」 「そのボスは強いのか」 「私の強さの50倍ほどの強さだと思われる」 50倍ってどういうことだよ。 「涼宮ハルヒと私の力を合わせると互角の力になる」 「なら二人に頑張ってもらわんとな」 「そのためには、あなたの協力も必要になる」 「まあいいが、何をすればいいんだ」 「後で報告する。おでまし」 長門がそういうと急進派のボスがそこにはいた。 4章のつづく
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その日のハルヒは、どこかおかしい素振りを見せていた。 そう言うと誤解を与えそうだから、ひとつだけフォローを入れておこう。いつものハル ヒは傍若無人で1人勝手に突っ走り、厄介事をSOS団に持ち込んでオレを含める団員全 員が苦労する──そういうことを、オレは普通だと思っている。この認識に異論があるヤ ツは前に出ろ。オレの代わりにハルヒの面倒を見る役割を与えてやる。 それはともかくとして。 その日のハルヒは……世間一般の女子高生らしい素振りを見せていた。 例えば、休み時間にクラスの女子たちと普通に話をしていたり、あるいはまじめに授業 を受けていたり、さらには放課後にこんなことを言ってきた。 「ねぇ、キョン。今日の放課後、時間空いてる?」 事もあろうに、あの涼宮ハルヒがオレに都合を聞いてきたのだ。 おいおい、なんだよそれは? まさに青天の霹靂ってやつじゃないか。おまえにそんな 態度を取られると、オレはどうすればいいか分からんぞ。 「ねぇ、どうなのよ?」 「あ、ああ、そうだな……それは部活が終わった後ってことか?」 「あ、そっか。うーん……そうね、大切な活動を中止するわけにもいかないか。終わって からにしましょ。忘れたら罰金よ!」 おいおい、オレはただ「いつの放課後だ」と聞いただけなのに、いつの間におまえに付 き合って時間を潰すことになっちまってるんだ? けどまぁ、そういうのがハルヒらしいってことだろう。そんな長時間でなけりゃ付き合 ってやっても罰は当たらないさ。 それにしても……あのハルヒがしっかりアポイントを取ってまで、いったい何を企んで いるのかね。オレは何かやらかしたかな? 思いつくことは何もないが……いやいや、も しかすると相談事とか? それこそありえないだろ。 それなら……と、あれやこれを考えつつ古泉とゲームに興じていると、長門がパタリと 本を閉じた。運命の時間になってしまった、というわけだ。 「それじゃキョン、下駄箱で待ってなさい」 団長さま直々のお達しにより、オレは下駄箱で待つこととなった。古泉に「おや、デー トですか?」などと聞かれたが、軽やかにスルーしておいたのは言うまでもない。 しばらく下駄箱前でボーッとしていると、ハルヒがやってきた。 ここで「待った~♪」などと言ってくれば「おまえは誰だ?」と言い放てるのだが、そ んなこともなく、代わりに口を開いて出てきた言葉は「ぼさっとしてないで、さっさと行 きましょ」とのこと。やはりコイツはオレの知っているハルヒで間違いない。 「んで? オレの貴重な青春時代の1ページを割いてまで、いったい何の用だ?」 北高名物のハイキングコースを並んで歩きながら、オレの方から話を振ってみた。 「……あんたさ、中1の夏、何してたか覚えてる?」 ややためらいがちに、ハルヒが口を開いた。 「なんの話だ?」 「いいから! 覚えてるのかって聞いてるの」 わざわざオレを呼び出して、意味不明なことを聞いてくる。そんな昔の話なんぞ、覚え ているわけがない。 おれが正直にそういうと、ハルヒは眉根にしわを寄せた。 「そうじゃなくて……ああ、もう! 中1の七夕の日、あんた何やってたの?」 この瞬間湯沸かし器みたいにキレる性格はどうにかならんもんか? それはそうと、中1の七夕だって? 我が家では七夕に笹を出して織姫と彦星の再開を 祝う習慣はないから、いつもと変わらない一日だった……というか、待て待て。なんでそ んな話題を振ってくるんだ? オレはともかく、ハルヒにとっての中1の七夕と言えば……校庭ラクガキ事件の日じゃ ないか。そのことは新聞にも取りざたされた話だから、知っているヤツは多い。けれど、 ハルヒ自身の口からそのことを言い出すのは皆無だ。 「中1の七夕なんて、いつもと変わらない1日に決まってるだろ。そういうおまえは、校 庭にはた迷惑なラクガキしてたんだっけ?」 その詳細を知ってはいるが言うわけにもいかない。誰でも知ってるような話で切り返し たが、ハルヒは不意に立ち止まり、じーっとオレの顔を睨んでいる。 「なんだよ?」 「あんたさ、好きな子とかいる?」 …………おまえは何を言ってるんだ? 「いいから、いるのかいないのかハッキリしなさいよ!」 なんでそんな怒り口調で問いつめられなければいけないんだよ? とも思ったが、ここ でこっちもテンションを上げるのは、ハルヒの術中にハマりそうでダメだ。オレが冷静に ならなきゃ、会話が成り立たなくなる。 「なんで中1の七夕の話から、そんな話になるんだ? そもそも、どうしてそんなことを おまえに言わなくちゃならないんだ」 「それは……」 なんなんだこれは? なんでそこで口ごもるんだ。タチの悪いイタズラかと思えるよう な展開じゃないか。今のハルヒは、そうだな……まるで告白前に戸惑う女の子みたいに見 える。いや、オレにそんな状況と遭遇した経験なんぞないが、ドラマでよくある展開だ。これ でハルヒがオレに告白でもしようものなら、明日には世界が滅亡するぜ。 「…………」 「…………」 ハルヒが黙り、オレも黙る。なんともいたたまれない沈黙に包まれて、かと言ってオレ から話しかける言葉も見つからずにいると。 「もういい」 ふいっと背を向けて、1人早足で坂道を降りていく。その背中には妙な殺気が籠もって いて、とても並んで歩く気にはなれず、ただ後ろ姿を見えなくなるまで見送った。 そんなことがあった前日、どうせ今日には元に戻ってるだろうと登校してみれば、ハル ヒは学校に現れなかった。 あいつが休むとは珍しい。これは別の王道パターン──ハルヒが海外に引っ越す──か と思ったが、朝のホームルームで担任の岡部からそういう話はなかった。むしろ、「涼宮 は休みか?」などと言っていたから、病欠ってわけでもないようだ。純然たるサボリって ことなんだが……そうだな、おかしな事態だ。 あいつは授業中こそつまらなさそうにしているが、無断でサボるようなヤツじゃない。 異常事態だってことさ。 1限目が終わり、オレはすぐに9組の古泉のところへ向かった。ハルヒの精神分析専門 家を自称するアイツなら、何かわかるかもしれん。 「え、登校していないのですか?」 と思ったが、古泉も寝耳に水の話らしい。 「昨日から様子がおかしくてな。それで今日は不登校だろ? 何かあったのかと思ったん だが……おまえの様子を見るに、閉鎖空間もできちゃいないようだな」 「そうですね。ここ最近、僕のアルバイトも別方向の役目が多くて……おっと、これはあ なたには関係ない話ですが。ともかく、今の涼宮さんは安定しているようです」 おまえのアルバイトでの役目なんぞどーでもいいが、その話でハルヒがストレス貯めて たり、妙なことを企んでる訳じゃないことは把握した。 しかし、まったく何もないわけじゃないだろう。 これまでの出来事を思い返し……あんな物憂げなハルヒを見たことは、2回ほどある。 七夕とバレンタイン。 あのときの様子とよく似ている。かといって、今はバレンタインって時期じゃない。も ちろん七夕って日でもないが……しかし、あいつの方から七夕の話題を出したってことは、 思い出さざるを得ないことがあった、ってことだろう。 ジョン・スミスの名前を。 時間的には昼休みか。そろそろ電話をしてもいい頃合いだろうと考え、ハルヒの携帯に 電話をかけてみた。 2~3回ほど留守電サービスに繋がったが、その後にようやく繋がった。携帯からじゃ なくて公衆電話からだからか、警戒したようだ。そりゃオレも見知らぬ番号や携帯からか かってきた電話には出ないがね。 『あんた誰?』 電話応対の定型文を使うようなヤツじゃないが、そういう態度はどうかと思うぞ。 「オレだ」 『あたしに「オレ」って名前の知り合いいないんだけど? つーか、さっきからしつこい し。その声、もしかしてキョン? だったらふざけた真似はやめなさいよ』 「いや……ジョン・スミスだ」 『…………え?』 この名前を口にするのも久しぶりだ。できることなら名乗りたくもなかったが、事情が 事情だしな、仕方がない。対するハルヒも、オレが何を言ってるのか理解できていないよ うだった。それも仕方がない。 「なんつーか……久しぶりだな」 我ながらマヌケな言葉とつくづく思う。毎日その顔を見ておいて「久しぶり」もなにも あったもんじゃない。 『あんた……ホントに、ジョン・スミス? じゃあ、やっぱりあの手紙もあんただったの?』 それがハルヒの物憂げな気分の正体か。 その手紙になんて書かれていたか聞き出すのは難しそうだが、わざわざ「ジョン・スミ ス」の名前を語っているということは、タチの悪いイタズラで済まされる話じゃない。 「その手紙になんて書いてあったかは知らないが、オレが出したものじゃないことは確か だな。今日、学校を休んでいるのもその手紙のせいか?」 『そうだけど……ちょっと待って。ジョン、なんであたしが学校休んでるの知ってるの?』 しまった、余計なことを口走っちまった……。 『あんた、今学校にいるのね? そうなんでしょ! 今から行くからそこにいなさいよ、 逃げたら死刑だからね!』 言うだけ言って切っちまいやがった。やれやれ、これもまた規定事項ってヤツか? だ としたら……そうだな、ここで頼るべきは長門か。はぁ……まいったね。 5限目の終了を告げる鐘の音とともに、教室のドアがぶっ壊れるほどの勢いで開かれた。 そこに、鬼のような形相でハルヒが立っている。 ハルヒは呆気に取られているクラスメイトと教師を一瞥し、ずかずかと教室の中に入り 込んできたかと思えば、オレのネクタイをひねり上げてきた。 「着いてきなさい」 声が低く落ち着いているだけに、逆に怖い。 ずるずる引きずられて教室から出て行くオレを、哀れな生け贄を見るような目で見つめ るクラスメイトの視線が痛かったのは言うまでもなく、教師すら見て見ぬふりをするとは どういう了見だ? 教育委員会に訴えてやろうか。 「協力しなさい」 屋上へ出る扉の前。常時施錠されていてほとんど誰も来ないこの場所で、既視感を覚え るような事を言われた。前と違うのは、今回はカツアゲどころか命を取られそうな殺気が 籠もっているというところだろうか。 「いきなり学校にやってきたと思えば、何に協力しろって?」 「校内に、あたしらより3~6歳年上の見慣れない男が一人、うろついてるはずよ。そい つを見つけて確保した上で、あたしの前に連行してきなさい」 なんつーことを言い出すんだ、おまえは? そもそも校内に見慣れない男がうろちょろ してたら、誰かがすでに気づいてるだろうが。 「あんた、校内にいる教師の顔、全員覚えてる? 一人くらい見慣れないヤツがいたって、 それらしい格好してれば紛れ込めるわ」 まぁ……言われて見ればそうかもしれないな。部室にあった、過去の卒業アルバムに載 っていた教員一覧は4ページに渡っていたわけだし。 「いい? 時間はないの。怪しいヤツを見かけたら、拉致って即座に連絡すること。次の 授業なんかほっときなさい。それと、このことはSOS団全員に通達することも忘れない ように! ところで……あんた、携帯忘れてないわよね?」 「それは持ってるが……」 「ちょっと貸しなさい」 言うが早いか、ハルヒはいきなりオレの上着の内ポケットに手を突っ込むと、携帯電話 を強奪しやがった。どうしてオレはキーロックをかかけてないんだ、と最初に思った時点 で何か間違ってる気がするのは、この際ほっとこう。 「……あんた、昼にあたしに電話した?」 我が物のようにオレの携帯をいじるハルヒは、どうやら着信履歴を真っ先にチェックし たらしい。こいつの旦那になるヤツはあれだ、履歴チェックは欠かさないようにすること を忠告しよう。 オレはどうだって? オレの場合、見られて困る相手に電話をしてるわけじゃないから、 別に気にしないさ。 「かけたよ。おまえが学校に来ないのが気になったんだ。通じなかったが」 「ふーん、そっか」 正直に話すと、それで興味を無くしたのかハルヒは携帯を投げ返し、そのまま猛烈な勢 いで階段を駆け下りて行った。オレはいつぞやのように一人、取り残されたってわけだ。 どうやらあの様子から察するに、あいつの頭の中では校内にジョン・スミスがいるっ てことになってるんだろう。 それはあながち間違いではないが……捜す対象がオレらより3~6歳ほど年上の男とな ると、まず見つかるわけがない。それは言うまでもなく、オレがジョン・スミスだからだ。 そりゃまぁ、あいつが中1の七夕のとき、オレは北高の制服を着ていたし、事実高1だ った。学年まで気づかなかったとして、制服を着ていることから3~6歳ほど年上と思う のも仕方がないことだろう。 しかしなぁ、かくいう張本人を目の前にして、そいつを捜せと言われても困るんだがな ぁ……。捜す振りをして、ひとまず残りのメンツに話だけを通しておけばいいだろう。 そんなことを考えていたら、突然オレの携帯が鳴り出した。 ディスプレイを見れば、 番号非通知。 嫌な予感がくっきり色濃く脳裏を過ぎった。どんな色かと問われれば、黒というか闇色 というか、そんな感じだ。 「……もしもし?」 『午後3時、旧館屋上に』 「は?」 通話できたのは、たった一言。無味乾燥な物言いは、どこかで聞いたことのある声だっ た。けれど、記憶にあるその声とは何かが違う。 どうやら、オレが思っている以上に厄介なことが起きてる。そんな予感を感じさせるに は十分な通話内容だ。 「なにがどうなってるのかサッパリだが……」 宇宙的、あるいは未来的、もしくは超能力的な厄介事に巻き込まれているのは間違いな い。これがせめて、異世界的な異変でないことだけを心から願いたいが……何であれ、そ れでもオレを巻き込むのは勘弁してもらいたいね。 困った事態というのは、ひとつ起こればドミノ倒しの要領で立て続けに起こるもんだ。 オレはそのことを、涼宮ハルヒという人間災害から骨の髄まで染み込むほどに学んだ。 それが今、まさに、この瞬間、立て続けに起こっているわけだ。 ひとまず古泉には事情を説明して『機関』の人員の手配を頼んでおいた。長門にも協力 要請を出しておいた。朝比奈さんは、申し訳ないが最初から巻き込んでいる。 SOS団的に言えば、盤石のフォーメーションで挑んでいると言っても過言ではない。 にもかかわらず、オレが危惧しているのは、オレ自身が上手く立ち回れるかどうかについてだ。 まいったね。「やるかやらないかより、出来るか出来ないかが問題だ」なんて格言があ るのかどうかは知らないが、ここで本音を語ろう。声を大にしてだ。 出来ません。無理です。勘弁してください。 「フォローはする」 心強いコメントだが、どこか投げやりなのは気のせいか? 「そもそも、本来の場所はここじゃなかったよな。公園だっけ?」 「些細なこと。重要なのは事実が現実になるかどうか。情報操作は得意」 そういうもんなのかね。やっちまった……と思って、けっこうへこんでるんだが……。 「それならそれで長門よ、前にも言ったが……もうちょっとマシな形にはできなかったの か? かなり抵抗があるんだが……」 オレは手の中に収まっている黒光りする鉄の塊を、腫れ物にでも触るような手つきで持 て余していた。 「その形状がもっとも効率的。あなたが無理ならわたしがする」 「……すまん、さすがにオレには無理だ」 「そう」 オレは手の中のもの──拳銃を長門に手渡した。自分がやるべきなのだろうが、いくら なんでもこんなものをハルヒに向けて、狙い通りに撃ち抜くなんて、そこまでオレは淡々 と物事を冷静に運ぶことはできない。 「そろそろ時間」 ふいっと視線をはずし、長門は目の前の扉に目を向ける。オレは時計を見る。朝比奈さ んを見習って、電波時計にしているから狂いはない。 時間は午後3時になる5分前。各教室では本日最後の授業が行われている真っ最中だ。 普通なら、歩き回っている生徒なんているはずもない時間だが……目の前の扉が、もの凄 い勢いで開いた。 「見つけたわ!」 ドカン! と音を立てて、旧館屋上の扉が開かれた。 そこに立っているのは、言うまでもなくハルヒ。その形相は、親の敵を見つけた仇敵と 相対する西部劇のガンマンみたいな顔つきだ。 「あなたがジョン・スミスね! ふざけた名前で捜すのに苦労したわ。よくもまぁ、あた しが中1のころから今の今まで、逃げおおせたものね!」 「落ち着けよ。積もる話もあるだろうが、そういう場合じゃないんだ」 「どんな場合だっていうのよ! あたしはずっとあんたを捜してたわ。そのために北高に も来たし、SOS団まで作ったのに……あんたはずっと雲隠れしてて! どれもこれも全 部あんたを捜すために、」 「おいおい、そうじゃないだろ」 ハルヒの言葉を遮って、オレは言うべきことを口にする。 SOS団、つまり『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』っ名称は、そりゃ 確かに七夕のときのオレの一声をもじって付けたものかもしれない。そこにどんな思いが 込められていたのかなんて、オレにはとっくに分かっている。 だが、それはあくまでも切っ掛けにすぎない。今ここにいるハルヒがやってることは、 何もジョン・スミスに会うためだけにやっていることではないはずだ。 「今、おまえはけっこう楽しんでるだろ? オレと会うことでほかのすべてを捨ててもい いとは思ってないはずだ。目的と手段が入れ替わってることに、そろそろ気づいてもいい んじゃないのか?」 「何よそれ!? あたしは……」 「言いたいことは分かってるさ。ああ、悪いな」 オレはちらりと時計を見る。そろそろ午後3時。時間だ。 「話は、ここまでだ」 オレの言葉に合わせるように、長門は迷いなく銃口をハルヒに向けて、その引き金を引 いた。 パシュン、と軽い音が響く。その音に胸騒ぎを覚えたオレは、階段を出来る限りの速さ で駆け上った。 そこで目にしたのは、倒れているハルヒと、スーツに身を包んだ一組の男女。その二人 が何者かと考えるよりも先に、オレはハルヒに駆け寄っていた。 正直、血の気が引いた。直後によく動けたものだと、あとになって自分自身に感心したほどだ。 「ハルヒ! おい、しっかりしろ!」 見た限り、ハルヒに外傷はない。ただ、いくら呼びかけても返事はなく、その姿はまる で眠っているように見えた。 「眠らせただけ。それより、動かないで」 まるでどこぞの社長秘書のような出で立ちで、ご丁寧に怪しさ倍増のサングラスまでか けたその女性が、膝を折ってオレを見る。……あれ、この顔はどこかで見たことが……と、 考えるよりも先に、それは起こった。 大袈裟な変化があったわけではない。ただ、オレが駆け込んできた屋上へ通じる出入り 口がなくなっている。場所こそ旧館の屋上ということに変わりはないが、目の前にはどこ にでもいそうな大学生、あるいは社会人的な年代の男女数名が現れていた。 いったい何時の間に、どこからやってきたのかさえオレにはわからない。というか、そ もそも今がどういう状況なのかもわからない。 「悪いが見ての通りだ。ここでドンパチやるのは構わないが……」 ダークスーツに、こちらもサングラスをかけている男が、目の前の相手を前に口を開き、 彼方の方向を指さした。 「鷹の目がここを狙っている」 その瞬間、男と数名の男女のグループの間の地面が、パキン、と爆ぜる。まさか……と は思うが、もしかして今、どこぞから狙撃でもされてるんじゃないだろうな? 仮にそう だとしても、ここから狙い撃てる場所なんて、裏山の傾斜くらいだ。1キロくらい離れて るんじゃないのか? 「さらにここには、なが……こいつもいる。ジョン・スミスの名前を使ってハルヒを引っ 張り出すのは悪い考えじゃないが、できれば二度と使わないでもらいたいね」 男とその敵対グループらしい連中とのにらみ合いがしばし続き──誰と言うわけでもな く舌打ちを漏らすと、連中は次々に屋上の柵を乗り越えて飛び降りていった。 「時空間転移を確認。この時空間からの消失を確認した」 「はぁ……やれやれ。もう二度とこんなことをさせないでくれよ……」 深いため息をついて、男は腰が抜けたようにしゃがみ込む。この二人は……まさかとは 思うが……けれど、そんなバカな話があってたまるか。 「みなさん、大丈夫ですかぁ~?」 がちゃりと音を立てて、いつの間にか下に戻っていた屋上のドアが開かれる。そこに現 れた人影を見て、オレの疑念は確信に変わった。 現れたその人は、オレが何度も会ってる朝比奈さん(大)だった。ここでこんな登場を するということは、規定事項ってことなんだ。それはつまり、目の前の2人はオレが思っ ている通りでいいってことですね? 「ああ……いや、深くは聞かないでくれ。オレのこともだいたい分かってると思うが…… そうだな、古泉が所属する『機関』の上の人間と思ってくれ」 「ちょっ、ちょっと待ってくれ。なんだって!?」 「時間を自由に行き来できるなら、未来が過去において自由に動けるその時間帯での組織 を作っていてもおかしくないだろ。そうでもしなきゃ、ハルヒは守れないんだ」 「ハルヒを……守る?」 「ちょっとキョンくん、喋りす……あ」 朝比奈さん(大)は黒スーツの男に向かってそう言った。「あ」って、迂闊すぎます… …が、今は有り難いね。それで確信が持てた。 やっぱり、この二人は……未来のオレと長門なのか!? 「そいつは禁則事項ってヤツだ。ただ、今回のことでわかったと思うが……まだまだハル ヒ絡みの厄介事は続くってわけさ。同情するぜ」 いやもう、頭が混乱してきたぞ。何がどうなってるのかしっかり説明してくれ。 「それは追々分かるだろ。ハルヒはもうちょっと寝てるだろうから、しっかり介抱してく れ。目が覚めたら今回の出来事は忘れてるはず……だよな?」 未来のオレが隣の……たぶん、未来の長門に確認を取ると、微かに頷いた。 「ああ、あと古泉経由で新川さんにも礼を言っといてくれ。さっきの狙撃はなかなかのも んだったしな。んじゃま、10年後に会おう」 その後のことを少しだけ語ろう。 屋上からの出入り口から出て行った3人の後を追うように、すぐに後を追ったが姿はなく ……長門(大)に眠らされていたハルヒを保健室に運んだオレは、未来からやってきて いたオレたちについて憶測を巡らせた。 今回の出来事は、直接的には今のオレやハルヒに関係のない事件かもしれない。むしろ 未来のオレらに関わる事件が、たまたまこの時間軸に関わりがあったにすぎず、その騒動 に巻き込まれただけのような気もする。 この時間軸で事の詳細を正確に理解しているのは長門だけだろうが、親切に話してくれ なさそうだ。何しろ、オレの未来に直接的に関わってくる話だしな。 未来のオレは「古泉が所属する『機関』の上の人間」だと言った。つまり、オレは将来 的には古泉と同じ『機関』の、それもトップクラスの立場になるかもしれない。下手をす ると、『機関』の現時点でのトップは未来のオレ……なんてことも、あの口ぶりでは十分 にあり得そうだ。もしそうだとしたら、悪いが全力でそんな未来を変えようと足掻くだろう。 しかし未来のオレは、その現実を受け入れていた。そう決断しなければならない出来事 が、今後起こり得るかもしれないが……そんなことは考えたくもない。 「……うん」 「よう、お目覚めか」 「あれ……キョン? あれ……あっ!」 寝起きとは思えない勢いでハルヒは保健室のベッドから飛び起きた。こいつは低血圧と は無縁なんだろうな。 「ちょっとキョン、あの男はどこ行ったのよ!」 オレの首を締め上げて、もの凄い勢いでまくし立てている。おいおい長門(大)よ、今 回の騒動のことをハルヒは忘れてるんじゃないのか? どう見てもしっかりばっちり完 璧に覚えているじゃないか。 「あ、あの男って誰のことだ!?」 「誰って、そりゃ……あれ? えーっと……」 続く言葉が出てこないのか、ハルヒは肝心なところは覚えていないらしい……というか、 ジョン・スミスについて何も覚えてないんじゃないのか? 「なぁ、ハルヒ。真面目に聞くから正直に答えて欲しいんだが」 いまだにオレの首を握りしめている──といっても力はまったく込められていなかった が──ハルヒの手を取り、オレは肝心なことを尋ねようと思った。 それがたとえ、オレの思ってる通りでも違ったとしても、オレとハルヒの今の関係が崩 れる類のものではない。ただ、オレの決心が鈍るかもしれない質問だ。 「おまえ、SOS団を何のために作った?」 「はぁ? あんた何言ってるの。最初に言ったでしょ。もう一回聞きたいの?」 「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことか? 本当にそれだけか?」 当初ならそのセリフで納得も……できやしないが、まぁ、ハルヒならありえそうだなと 思って追求しなかったさ。 しかし、今日この日に至るまで経験したさまざまなことを鑑みて、ハルヒがただその理 由のためだけにSOS団なんて作り出したとは、オレには到底思えない。SOS団の名称に したってそうさ。 ハルヒはただ、ジョン・スミスとの再会を願ってこの名前を付けたんじゃないのか? だからもし、ハルヒがジョン・スミスがオレと知ってしまえば……SOS団はその役目 を終える。それが怖かった。もしそうなら、オレはこいつに「自分がジョン・スミスだ」 などとはとても言えやしない。 「……あんたが何を考えてるか、だいたい分かってるわ」 キュッとオレの手を握り替えし、ハルヒがオレの予想とは違うことを言った。 「最近、みんなと一緒に遊ぶことが楽しくて、本来の結成目的がおざなりになって不安に なってるんでしょ? でも安心しなさい。あたしはまだ、当初の目的を忘れていなんかい ないわ! いつか、必ず、絶対に宇宙人や未来人や超能力者を見つけてやるんだから!」 「本当に……そうなのか?」 「はぁ? 当たり前でしょ!」 語気を強めるハルヒだが、オレはまだ納得できない。 「しかしだな、SOS団の名称が……なんつーか……センスないなと思って」 「うっさいわね! 昔、変なヤツが言った言葉を借りて命名したのよ。あたしのセンスじ ゃないわ」 「そいつを捜すために、名前を借りたのか? つまり、SOS団ってのは……」 「うーん、そりゃ捜したい気持ちはあるし、ちょっとは気になってるけど……ほら、昨日 あんたに中1の七夕のときのこと聞いたでしょ? そのときに会ったヤツが言ってたセリ フでさ。そいつ、なんかあんたに……そうね、ちょっと似てたかも。だからもしかして、 あんたじゃないかって考えたこともあったわ。なんでそんなこと考えたのかしらね? あ り得ないのに」 あり得ないと思ってくれるのは有り難いが、事実その通りで、こいつの勘の鋭さにはと にかく呆れるね。 「でも、それはあくまでも切っ掛け! そもそも、その男は自分は自分で楽しいことして るに決まってるわ。あたしも負けてられないから、名前を借りたのよ! いつかあたしの 前にふらっと現れたときに言『あんたより、あたしのほうが楽しいことしてる』って言っ てやるためにね!」 ああ……どうやらオレは、未来の自分と会って少し混乱していたらしい。よく考えれば、 疑う余地なんでまるでないじゃないか。 ハルヒはSOS団結成の理由を「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこ と」としているが、実際はそうじゃない。 かといって、オレが邪推したように、ジョン・スミスを捜し出すためでもない。 そりゃ、その両方もまったくのウソというわけではなく、心の片隅にちょっとはあった のだろう。だが、ハルヒの心を占めているのは、普通の高校生らしい、ただ純粋に「今の この瞬間を思いっきり楽しみたい」って気持ちだけなんだ。 ハルヒにちょっと桁外れのトンデモパワーがあって周りは騒いでいるが、本人は青春を 謳歌したいだけなんだ。それならオレは、ハルヒ的青春の謳歌に付き合ってやるさ。今ま で散々、周囲に迷惑をかけて面倒を巻き起こしてきた過去に比べれば、どれほどまともで 健全なことか。 それを未来的な策謀や、宇宙人的な思惑や、秘密結社らしい陰謀で潰すのはあまりにも 身勝手な話だ。だからオレは……そうか、だからなのか。未来のオレは、10年経ったそ のときでも、SOS団のメンバーと一緒にハルヒを守ってるわけか。そのために、面倒な ことに進んで首を突っ込んでいるのか。それこそ、願ったり叶ったりだ。 もしかすると、今回の事件はオレにそう思わせるために必要な出来事だったのかもな。 「何よあんた、ニヤニヤと締まらない顔しちゃって」 予想以上の結論に至って満足していたのか、その喜びが顔に出ていたらしい。ニヤニヤ とは、そこまでイヤらしい感じじゃないだろ。 「なぁ、ハルヒ」 「な、なによ」 「これからも、一緒にいてやるぞ」 「ふぇ?」 ……なんでそこで赤くなるんだ? どうして急に力を込めて手を握りしめてくるんだ? 「キョン……それってつまり……ええっと、世間一般で言う告白……のつもり?」 「は?」 待て待て。なんでそういう……そういうことになるのか? もしかしてオレ、素で勘違 いされるようなこと言ってたか? ここは一応、フォローしておくべきか……? 「……つまり、SOS団の一員として、なんだが……いだだだっ!」 物の試しで言ってみたが、瞬く間にハルヒの顔が別の意味で赤くなった。つまり、照れ 方向から怒り方向にシフトして顔が赤くなった……ようにオレには見える。 「……いっぺん真面目に死刑にしてあげようかしらね?」 ハルヒさん、リンゴを握りつぶすような握力で手を握らないでください。その鉄球みた いな頭突きを繰り返さないでください。いや、マジで痛いって! 「あんたには言葉の重みってのを教えてあげる必要がありそうねぇ……覚悟しときなさ いよ!」 妙なスイッチが入ったハルヒを、オレが止めることなんて出来るわけがない。そもそも こいつを守る必要が本当にあるのかどうかも悩むところだ。 これから少なくとも10年は、こんなことが続くのか……やれやれ、まいったね。 だがそれでも、オレはもう二度と冒頭に思ったセリフは口にしないつもりだ。 そりゃそうさ。こんなハルヒの面倒を、今後10年は見守っていられるるヤツなんて、 オレ以外の適任者がいるとは思えない。 なぁ、そうだろ? 〆
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「あのね、涼宮さんに聞きたいことがあるのね」 「何?」 放課後の教室で、文芸部室に向かおうとしていた俺とハルヒに話しかけてきたのは阪中だ。もちろん返事をしたのはハルヒだ。俺はこんなにそっけない返事はしない、だろう。 「キョンくんにも聞いてほしいのね。相談何だけど…」 阪中の話によると、阪中は面識のあまりない隣のクラスの男子生徒から告白されたらしい。しかし阪中はその男子生徒の事を良く思ってなく断りたいのだが、どう断ったら良いのかわからない。 そこで、中学時代に数々の男をフッてきたハルヒに聞いてみようと考えたらしい。俺は完全にオマケだ。 「でね、明日の放課後にもう一度気持ちを伝えるから、そのときに返事を聞かせてくれって言われたのね」 「そんなの興味ない、の一言で終わりじゃない! 何でそんな簡単なこと言えないのかしら」 「おいおいハルヒ、阪中は普通の女子生徒だぞ? もう少し阪中らしい断り方考えたらどうなんだ?」 「何よ、あたしが普通じゃないみたいな言い方はやめてくれる? それにあたしに相談してきたって事はあたしの流儀を聞きにきたって事よ! あたしのやりかたを言って文句あるの?」 「そうか。それはお前が正しい。だけどそれを押し付けるのはやめろ」 「喧嘩しないでほしいのね」 坂中の言葉で言い争いをやめた俺たちは真剣に協議をし始めた。 ハルヒの席を囲むように座っている。ハルヒと俺はいつもの席で阪中はハルヒの隣にイスを引き寄せて座っている。人が少なくなったので段々と声が大きくなってくる。 「じゃあキョン連れてって『コイツ私の彼氏なの~彼氏いるからむりなのね~』とか言わせて見ようかしら。」 「断じて断る。もっと普通なのはないのか?」 恋愛経験に乏しい俺にはアドバイスができるはずが無く、ハルヒの言った案を通すか通さないか役人的な仕事に専念していた。 ハルヒは非常に非現実的なアイディアばかりだすので俺は却下をくりかえした。阪中は自分の事なのに困った感じはなく、むしろ楽しげだった。 俺は今さらだが阪中は何故ハルヒに相談したんだろうと考えた。坂中の話しぶり、と言うか聞きぶりはハルヒに相談している形を取ってハルヒの過去の恋愛の体験談を聞きだしている感じだった。 不穏なことが起きなければいいのだが、と考えたが阪中なら平気だろうとスルーした。 そういえばルソーの一件以来阪中はハルヒに懐いてる。俺としてはハルヒが学校に溶け込んでる証拠のような気がして少し嬉しく思ってたりもする。 そんな事もあって俺はハルヒのためにも真剣に考えてやろうと思っていた。 「あーもう! 何で却下するのよ!」 「もう少し阪中の事を考えてやれ」 「これ以上はムリよ!!」 「じゃあ涼宮さんが言ってたようにキョンくん連れて行って恋人って言って見ようかななのね」 「こいつの言った意見ではそれが一番マトモなようだが、それは今後に関わるぞ?」 そう、俺の事を恋人と言い切ってしまえば翌日から男子生徒から始まり、少なくともこのクラスと隣のクラスの大半に知られてしまうだろう。 しかも、相手の男子生徒の事を考えると『あれは告白を断るため』とは言えない。 「わたしはいいのね。キョンくんがよければ」 俺が今後の事を考えていると、 「やっぱりキョンくんはわたしじゃ嫌なのね」 とか言われたので咄嗟に、 「嫌じゃあないし噂になるのはこいつのせいで不覚にもなれてしまっているんだ。」 何て口走ってしまう俺はどれだけお調子者なんだろう。ハルヒに助けを求める視線を出すとハルヒは少し不機嫌そうな表情で言った。 「噂になるのは恋愛禁止を掲げているSOS団としては困る事態だわ! 故に却下ね!!」 「じゃあどうするのね」 阪中は困ったように言った。でも俺には多少楽しそうに見える。これだけ考えた挙句振り出しなのだから俺もハルヒもどうしようもなくなっている。 「なぁ、理由なんて言わないで『ごめんなさい』とかだけじゃあダメなのか?何か聞かれても『ごめんなさい』で通ると思うぞ?」 恋愛経験ない俺が口出すのもどうかと思ったが素人の意見も取り入れた方がいいかも知れないと思った俺はそういった。 以外にもこれはシンプルでいいと言う事になってその方針で話を進めていた。ハルヒも阪中も良く考えれば簡単なことなのに思いつかなかったのはきっと2人が生まれつき変わった人間だからだろう。 「じゃあキョンくんと涼宮さんにちょっと実演してほしいのね」 まあ俺はそんな事を言われるとは思わなかったんで驚愕の表情をしていたと思うね。ハルヒほどじゃあないが。 ハルヒは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。お前は金魚か? 「いいわ、やりましょう!」 何を言っているハルヒ! ここにはすでに阪中とハルヒしか居ないとはいえ恥ずかしすぎる! 「あたしはフラれるのは嫌いだからあんたフラれる役ね!」 こうなったらハルヒはとまらない。ムダに逆らうと後が恐いし実演が困難になる。覚悟を決めるしかない。 「しょうがない。じゃあ言うぞ?」と俺は恥ずかしいので視線を落とす。 「ハルヒ、好きだ。付き合って欲しい」 ああ、何でこんなに恥ずかしいんだろう。思ったより全然恥ずかしかったな。それより返事はまだなのか? 視線を上げてハルヒを見ると顔を真っ赤にしている。俺は余計に恥ずかしくなってきた。 「涼宮さん、返事しないとダメなのね。返事が聞きたいのね」 ハルヒはハッと我に返って、 「いいわ! 付き合いましょう!」 とか言いやがった。俺が断らなければダメだろ、と言うと咄嗟にでちゃったなんて言い訳してる。 「涼宮さんにキョンくんをフるのはムリそうなのね。ウソでもフれないのね」 「そんなことないわよ! 中学時代にふった事ないから咄嗟に……」 やめろハルヒ! ごまかしてると思われるぞ、と言おうとしたが言えなかった。阪中の言葉に遮られたからだ。 「じゃあ今度は涼宮さんがキョンくんに告白してみてほしいのね」 ハルヒは俺の顔を見て、少し考えてから言った。 「いいわ! よく聞きなさいキョン! あたしはアンタが好きよ! 付き合いなさい!!」 俺はハルヒの勢いに少し焦って思わず、『廊下に響くぞ、他の人に聞かれたらどうする!』と思って廊下の方に目をやると、廊下側に座っている阪中という女の子の期待に満ちた表情で我に返った。 とりあえず任務を完了しなければ、と一呼吸置いた。そしてやはり視線を落として言った。 「すまんがハルヒ、俺はお前とは付き合えない」 「何でよ!」 「すまん…」 「団長命令よ!!」 「すまん…」 「あたしの事嫌いなの?」 俺は一瞬狼狽した。ハルヒの声が少し悲しそうで、演技には思えなく視線をあげた。そこには悲しい顔をしたハルヒがいた。だけど、阪中に目をやると未だに期待に満ちた表情をしていたのでハルヒは気にしないことにした。 「嫌いじゃあない。だけど、すまん。」 「じゃあ、なんでよ…」 ハルヒの声は消え入りそうだった。見ればほんのり涙目だ。ハルヒの表情は呆然としている。なんだか演技とはいえ、心が痛んだ。 「もういいだろう阪中。こんな感じでいいのか? というよりはこんな感じでいいんじゃないか?」 「ありがとうなのね。でも、涼宮さんの悲しそうな顔を見てたら何だか断れる自信なくなったのね。だから明日の朝手紙で断る事にするのね」 たしかに阪中の期待の表情が無ければ俺は断り切れなかっただろう。それほどハルヒの悲しそうな表情は切なげで、守ってやりたくなってしまった。 未だに呆然としているハルヒに目をやった。俺は、もう演技は終わったんだぞ、と言った。 「涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて、割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね」 そういい残して阪中はさっさと帰ってしまった。俺は、最初から手紙にすればいいのにとか、こんな状態のハルヒをおいて返るなんて、とかいろいろ阪中の批判を思い浮かべたが阪中は本当に困ってたんだろうという結論に着いた。 きっと阪中は手紙じゃあ失礼だと思ったのだろう。そして、今のハルヒには阪中はいないほうがいいと判断したんだろう。そう思うことにする それからハルヒは呆然として、俺はハルヒを置いていくわけにもいかずにハルヒの前の席に座ったまま過ごした。 そうしてハルヒが回復するまで待とうと思ったが、夕日が落ちてきた頃にはとりあえず家まで送ってやろうと決心した。 「ハルヒ、かえるぞ」 コクリとうなずき立ち上がるが、動こうとしない。俺はいつもと立場が逆だとは思いながらもハルヒの手を取って引っ張った。 俺はハルヒに何て言えばいいんだろうとか、そういえば今日のSOS団はどうなってるんだろうとか考えながらハルヒの家の近くまで送った。長門並みの無言が続いた。 ハルヒの家の近くまで来て、こんな状態でハルヒを家に帰していいのか考えた。頭の中で阪中のセリフが蘇る。 『涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね』 どうしたらいいのか分からなかったのでとりあえずハルヒの家の近くの公園に連れて行く。ベンチに座らせ、俺も隣に座る。とりあえずあれは演技であることを強調しようと思う。うまく言えるかな。 「ハルヒ、そろそろちゃんと目を覚ませ!」 ハルヒは多少意識が回復したように見えた。今度はハルヒは悲しそうな表情を浮かべている。俺を見て、視線を落として、もう一度俺を見てから消えるような声で言った。 「キョンはわたしが嫌いなの?」 俺は戸惑った。そんな事を言われるとは想像もしていなかった。あれは演技だから気にするな、と言おうとしていたのに言えなかった。 いや、会話の流れを考えるなら十分普通のセリフだし、言わなければならないのだが何故か口にできない。 「ハルヒ、俺がハルヒの事の事を嫌いなわけがないじゃないか。いつも一緒にいて、そんな事もわからないのか?」 「でも、好きじゃないんでしょ? あたしはキョンにとってはその他大勢。あの球場の5万人の観衆と一緒。同じ場所にいるけど深く関わることはない。」 小学生の時の話か。どうしようか迷ってあることを決心した。告白だ。 「ハルヒ、一度しか言わないから良く聞け。俺はお前の事が好きなんだ。さっきの演技とは違って今度は俺の本心だ。」 「ウソよ!」 ハルヒは急に叫んだ。 「だってあたしはあんたに好きって言われたときは演技だってわかってても断れなかった。そのときに気付いた。あたしはアンタが好きって。 でもあんたはアッサリあたしをふったじゃない。気付いたのよ。キョンはあたしの事を好きではないって。本当に好きだったら言えないハズだって。」 返す言葉もない。古泉なら何て言うだろう。いや、変な言葉でも俺は自分の言葉で言わなければいけないんだろうなと考えた。 「もう一度だけ言うぞ? 俺はハルヒが好きなんだ。」 と言ってからさらに続けた。 「俺も心が痛んださ。でも、演技だってわかってたから堪えることができた。きっと俺はハルヒの事を好きだと自覚していた分だけ心の準備ができていたんだろう。 でも、それでも心が痛んだ。ハルヒの気持ちも痛いほどわかる。ハルヒが俺の事をどれだけ好きかも伝わった。… …だからハルヒ、お前がそれだけ好きになった人の言う事を信じてくれないか?」 ハルヒは無言でこっちを見た。でも何故だかさっきまでの焦燥感や不安感はなかった。気がつけばハルヒは俺の手を握っている。 「ありがと。キョンのいう事だから信じる。」 「そうかい。」 俺はやっとの事でぎこちない微笑みをハルヒに向けた。そっとハルヒの両頬に手のひらを当て、ハルヒの顔に近づいて目をつぶり、キスをした。 ゆっくりと、甘いキスをしながら両手をハルヒの背中において抱きしめた。 そしてゆっくりとハルヒを放してから見たハルヒの顔は学校帰りの顔とは違って嬉しそうな表情をしていた。その中には安堵の表情も読み取れた。 「帰ろう。ハルヒと過ごす時間はいっぱいあるんだからゆっくり楽しんでいこう。」 そういってハルヒを家の前まで送っていった。 翌日の朝になって阪中の事を思い出しうまくやったか気にもなったが俺にはハルヒの方が気になったので阪中には悪いが気にしない事にした。 そして、教室でハルヒを確認して軽い挨拶をして、じゃあ、あらためて今日からよろしく伝えた。 俺とハルヒの関係は誰にも言わない事にした。 しかし言わなくても誰もが気付いている。 そして、交際を始めてからもハルヒと俺はいつでもどこでも変わらない事に気付いた俺は、谷口とかの言う俺とハルヒの関係は昔から付き合っているようなものなんだなと気付いた。 俺はあれから毎日部活の後にハルヒを送っていき、あの公園で話して、最後にキスをして帰るという日課が追加された。 そのことに幸せを感じながら日々を送っていく。
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1.落下物 早朝サイクリングは第2中継点、つまり光陽園駅前にて終わりを告げる。 実はここまでも結構な上り坂で、ハルヒを乗せて自転車を漕ぐ俺はかなり必死だ。 ハルヒは俺を馬くらいに思ってるのか、「もっと早く漕ぎなさい!」なんて命令しやがる。 それでも毎日律儀に迎えに行っている俺って何なんだろうね。 駅前駐輪場に自転車を停め、そこからはハイキングだ。 いつも通り、ハルヒと他愛もない話をしながら坂を上る。 話題もいつも通りだ。 朝比奈さんのコスプレ衣装、週末の探索の話、SOS団の今後の活動予定、 何故宇宙人が現れないのか、未来人はタイムマシンを発明したのか、超能力ってのは具体的にどういう能力か。 そんなハルヒの話をもっぱら聞き役時々突っ込み役に徹して朝の時間を過ごす。 後半の3つの問題については、むしろ俺の方が語れることが多ってことはもちろん秘密だ。 朝比奈さんの卒業が控えているにもかかわらず、その話題は出さない。 おそらく、不安とか悲しみとかを意識的に避けているのだろう。 いつかは直面しなくてはならないんだけどな。 話はいつも文芸部室まで持ち込んで、教室に移動して朝のHRが始まるまで続く。 同じテーマの話題なのに、毎回違う話が出来るってのは一種の才能だな。 芸人にでもなればいい。俺は笑えんが。 まあでも、そんなハルヒを眺めながら過ごす朝の時間ってのも悪くはないさ。 今日もそんないつも通りの朝だと思っていたのだが── とんでもないことが起こりやがった。 学校に到着して、中庭を歩いているときだった。 正面に見えるのは隣接した中学校で、その向こうは山だ。 住宅開発もここまでだったらしい。つくづくなんて学校に通っているんだ。 その正面に見える山の上に、なにやら光る物体が見えた。 いくら早朝だからって、もう7時にもなるので外はそれなりに明るい。 星が見えるって時間帯ではない。この季節は明けの明星が見えるのか? 何だ? 超新星爆発か!? そう思っている間に、その物体は輝度を増し、あっという間に山の中に姿を消した。 ドォーーーーーン 遠くの方でそんな音が響いた気がした。 突然、しかもあっという間のことにしばらく呆気にとられていた俺は、ハルヒの声で正気に戻った。 「キョン!! 今の見た!? 何なのかしら!!」 100Wの笑顔を俺に向けて聞いてくる。まだ頭が回らずにいた俺は 「わからん」としか言いようがない。 「そうよ、UFOよ!! それしかないわ!! きっと裏山に墜落したのよ!!」 ちょっと待て! UFOだって? そんなわけあるか!! 「キョンも見たでしょ! 間違いないわよ! きっと侵略者ね。運転誤って墜落したのよ!」 UFOの操縦を運転と言うのかどうかという突っ込みはおいといて、とりあえず落ち着け! 「探しに行くわよ!! こんなチャンスは滅多にないんだから!!」 「おい、学校だろ!」 「そんなのどうでもいいわよ! いいからキョンも行く!!」 俺の手を強引に引いて歩き出すハルヒを、俺は何とかとどめた。 「あんな山に行くなら鞄が邪魔だ。登山道もないんだぞ。とりあえず部室に行こう」 果たしてあれがUFOだったのか何だったのか、俺にはさっぱり分からない。 UFOの可能性もある。いや、高い。なんせハルヒだからな。 ハルヒがそろそろ普通の毎日に飽きて何かしやがった可能性がある。 でなきゃあんな近くに落ちるか? しかも、運良く人家のないところだ。出来すぎてる。 何とか長門に連絡できないか? しかしハルヒの目の前では出来ない。 俺が思案していると、ハルヒに怒鳴られた。 「こらぁ! ボサッとしてない! 宇宙人が逃げて行くかもしれないじゃない!」 UFOだったとして、あの速度で落下して宇宙人が無事だとは思えないのだが。 「宇宙人なんだから助かる技術くらいあるでしょ! いいからサッサと行く!!」 部室に行くことだけは何とか同意してくれたハルヒは、俺のネクタイを掴むと走り出した。 何とか鞄を部室に置くことが出来た俺たちは、裏山探検隊を結成することになった。 隊長:涼宮ハルヒ 隊員:俺 以上。 ……無事に帰ることを祈っていてくれ。 「バカ言ってないで、張り切って行くわよ!!!」 ハルヒは部室でご丁寧にも「隊長」と書いた腕章を用意すると直ぐに飛び出して行った。 せめてSOS団が揃ってからにして欲しかったよ。やれやれ。 俺たちが見たのは『山に落ちた』という事実だけだ。 むやみに山に入って見つけられる訳もない。 歩き回っても見つからずそのうち諦めるさ、と思っていた。 いや、見つからないでくれと祈ってさえいた。 しかし、あれだけ派手に落ちたのに誰も騒いでないのは何故だろう。 これこそ、ハルヒの力かもしれない。 自分が第一発見者じゃなきゃ気が済まないだろうからな。 足場の悪い山道──いや、道ですらないな──を上っていく。 下草も刈っておらず、木の枝を避けながら歩くのは非常に骨が折れた。 そんな道を、ハルヒは物ともせずにずんずん進んでいく。 いつぞやの朝比奈さん(みちる)との登山とは大違いだな。 ハルヒなら、ずり落ちて俺が支えてやる何てことは逆立ちして登ったってないだろう。 いや、さすがのハルヒも逆立ちして登山なんて無理か。 「おっかしいわね。UFOが墜落したなら煙くらい上がってても良さそうなんだけど……」 そんなことをブツブツ言いながらも、ハルヒの表情は生き生きとしている。 爛々と輝かせた瞳には、全宇宙の星を内包しているかというくらいだ。 そんなハルヒの横顔を見ながら登山していると 「うわっ」 見事に足を滑らせた。 「あんたなにやってんのよ!」 ハルヒは俺をどやしつけながらもケラケラと笑っていた。 俺の醜態を見てそんないい笑顔するなよ。 あー 制服が泥だらけだぜ、畜生。 しかし、そんなハルヒを見ていると、さっきからの疑念が膨らんで行く。 本当にUFOなのか? お前がやったのか? ハルヒ。 しばらく歩いた後、ありがたいことに前半の疑念は晴れることとなった。 目の前が少し開けた。そんなに広くはない。 その真ん中に、直径2m程のくぼみが出来ていた。木の枝が散乱している。 掘り返されたような土肌は新しい。 そして、そのくぼみの真ん中に、明らかに周りの地質とは異なる黒い石が落ちていた。 「何これ?」 不思議そうな顔をしてハルヒが呟いた。 「おそらく、隕石だ」 果たして、人間が隕石の落下を目撃し、それを発見してしまう確率ってのは一体どれくらいのもんだろう。 宝くじ1等当たるより低い気がするぞ。 UFOの墜落を見る確率よりは高いだろうが。 俺は1つ溜息をつく。ここでいきなり第三種接近遭遇なんてことにならなくて良かった。 どっちが捕獲されるかはわからんが、下手すりゃ第四種だ。ハルヒなら捕獲しそうだな。 俺はすでに第三種接近遭遇は済ましてるけどな。 UFOは見ていないが。 宇宙人に殺されかけたのは、さて第何種と言っていいんだろうな。 ハルヒはクレーターの真ん中に近づくと、地面に半分埋まった黒い石を眺めた。 「隕石かぁ。実は小さいUFOってことはないかしら?」 しかしどう見ても石だった。 「でもこれも凄い発見よね! もしかしたら石じゃなくて地球外生命体の秘密の道具か何かかもよ!」 ドラ○もんかよ、じゃなくてしまった! そっちの可能性があったか! 普通なら寝言は寝て言えと片づけられる発言も、ハルヒが言うとシャレにならん。 やはり長門に連絡を取ってみるかと考えていると、ハルヒは無防備にその石を手に取った。 「おい! むやみに触るな!」 声をかけるのが遅かった。 ハルヒがその石を拾って立ち上がったとたん── その場に倒れた。 「おい! ハルヒ!! しっかりしろ!!!!」 何があった? いくら呼んでも目を開けない。 ハルヒを抱き起こして揺さぶってみる。 さっきまであんなに元気だったのに? ハルヒに何が起こった? 頼む、目を開けてくれ! すまん。先に気付くべきだった。 今回のことはハルヒ絡みか、さもなければ宇宙人絡みか。 何かある、とうすうす気がついていたのに、俺はハルヒを止めなかった。 「ハルヒ……!」 気がつくと、俺はハルヒを抱きしめていた。 畜生、本当に何が起こった。 いや、落ち着け。 原因は十中八九あれだ。あの隕石。 だったら俺にはどうしようもない。助けを呼ばなくては。 ようやく長門に電話することを思い出した。 『……』 いつもの無言で出てくれた。 「もしもし! 長門! 助けてくれ!」 相変わらず無言だが、構わずに続ける。 「今学校の裏山にいる。隕石が落ちたらしくてハルヒと捜していた」 『午前7時4分、地球の重力にとらえられた落下物を確認』 「その隕石をハルヒが触ったとたんに倒れちまった。意識が戻らねぇ」 『……そちらに行って確認する。待っていて』 電話は一方的に切れた。 と思ったら、長門がいた。 「長門!? どうやって来た!?」 聞いても俺に分かる答えが返ってくるはずもないのだが、一種の瞬間移動らしい。 量子変換がどうたらと言っていた気がするが、すまん。さっぱりわからん。 本当に何でもありだな。時間も凍結出来るこいつだ、空間移動なんて朝飯前だろう。 その長門はしばらくハルヒをじっと眺めた後、ハルヒの手にある隕石を眺めていた。 何とかその表情を読み取ろうとして、俺は不安になった。長門が1ミリほど顔をしかめた気がした。 「緊急事態」 その一言で、俺は目の前が真っ暗になった気がした。 「しっかりして」 長門の声で我に返る。 「涼宮ハルヒを学校へ。部室に行く」 いつになく緊迫した声で──と言っても俺にしか解らないだろうが──俺に言った。 「わかった」 どのみち俺に出来ることはない。 ハルヒを背負うと歩きにくい山道をそろそろと下りていった。 今思うと長門に任せた方が早く下りられたのだが、俺はハルヒを誰かに任す気にはなれなかった。 長門は誰かに電話をしていた。おそらく古泉と朝比奈さんだろう。 学校に着くと、校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。 登校中の生徒も多く見られるが、気にしちゃいられない。 「直ぐに救急車とタクシーが来ます。部室ではなく病院に行きましょう」 そう言ったとたん、救急車とタクシーが現れた。どこかで待機していたのかもしれない。 ストレッチャーにハルヒを乗せ、俺も付き添いで救急車に乗り込んだ。 救急隊員は、やはりというか多丸兄弟だった。 「ハルヒ……」 手を握っても、握り返されることはない。 早く長門の説明を聞きたかったが、ハルヒの側を離れたくなかった。 おそらく古泉と朝比奈さんは、タクシーの中で状況を説明されているだろう。 やがて救急車は見覚えのある病院に着いた。これは予想の内だった。 『機関』なら、ハルヒに対しては出来る限りのことをするだろう。 驚いたことに、ハルヒは医師の診察を受けず、直ぐに病室へと運ばれた。 「診察はしないんですか?」 側にいた多丸(兄)さんに聞くと、そういう指示だと言う。 不思議に思っていると、長門が来て言った。 「診察は無意味。涼宮ハルヒは病気ではない」 2.レトロウイルスへ
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涼宮ハルヒの冒険(仮) プロローグ 第一章 第二章 第三章 おまけ